研究概要 |
オートファジーと細胞死の双方の誘導に関わる分子として,細胞死制御因子であるBc1ファミリー分子群に着目し解析を行った.これまでに,Bc1ファミリー分子の1つで細胞死の抑制に携わるBc1-2の強発現細胞においては,生理的なオートファジーの誘導が抑制されることが報告されている.しかしながら,本研究ではBcl-2の強発現によって,A群レンサ球菌の感染による細胞死の誘導は抑制されたが,オートファジーの誘導は抑制されなかった.一方で,Bcl-2と同じ細胞死抑制因子であるBcl-xL,Bcl-wよびBcl2A1の強発現細胞では,細胞死とオートファジーの両者が抑制された.これまでに,細胞質内のROS産生の増加に伴い,オートファジーの誘導が促進されることが報告されていることから,これらの3つの細胞死抑制因子を強発現させた細胞においてROS産生量を測定した.A群レンサ球菌感染細胞では感染によってsmall-GTPaseの1つであるRac1を介したROS産生が誘導されるが,コントロールベクターを強発現させた細胞と比べて,これらの3つのBc1ファミリー分子を強発現させた細胞内でのさらなるROS産生の抑制/増加は認められなかった.このことから,オートファジー抑制機序についてはROS産生とは別の機構が関与していることが推察されることから,さらなる解析が必要であることが考えられるが,これらの3つの細胞死抑制因子が細胞死とオートファジーの両者を制御する『司令塔』として機能している事が示唆された.さらにの細胞内での詳細な機能,役割を精査することで,これらが本菌の感染を制御する分子ターゲットとなることも期待される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Bclファミリー分子のうち,細胞死促進因子群のタンパク質については,発現のみで過度の細胞死を誘導することから,強発現による実験系の遂行はできなかった.しかし,本年度までに全ての細胞死促進因子群のGSTタグ付組換体の作製を完了することができたことから,組換体を用いたプルダウンアッセイによって,Atgタンパク質群との相互作用を観察することが可能となった.すでにプルダウンアッセイを開始しており,これまでに非発表ながら.ポジティブな結果が得られている.
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今後の研究の推進方策 |
上記に記したプルダウンアッセイを引き続き実施することで,Bclファミリー分子群とAtgタンパク質群との相互作用を明らかにする.相互作用の認められた分子についてはさらに結合部位を同定する.また,これらの分子群のノックダウン系を網羅的に構築することで,個々の分子のオートファジーあるいは細胞死における機能を明らかにする.さらに,現在当該研究室では,近年報告されたゲノムエディッティングと呼ばれる手法によって標的分子のノックアウトを細胞レベルで行うことを試みている.この系において,Bclファミリーからは,Bcl-2(細胞死抑制因子)とBax(細胞死促進因子)の2分子について現在ノックアウト細胞株の作製を試みている.
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