研究概要 |
細胞内で誘導されるオートファジーと細胞死は, 互いにその活性を綿密に制御することで, 生体の恒常性維持や疾患の発現に寄与している. 当該研究においては, 細菌感染時のオートファジーと細胞死の双方の誘導に関わる分子として, 細胞死制御因子であるBc1ファミリー分子群に着目し解析を行った. 細胞死の抑制に携わるBc1-2の強発現細胞においては, 栄養飢餓型オートファジーの誘導に必須なBeclin1にBc1-2が競合的に結合することで, オートファジーの誘導が抑制されることが報告されている. しかし, 本研究ではBc1-2の強発現により, A群レンサ球菌感染による細胞死の誘導は抑制されたが, オートファジーの誘導は抑制されなかった. Baclin1欠損細胞においては, 本菌感染によるオートファジーの誘導に影響がないことが確認された. このことから, Beclin1-Bc1-2 complexを介したオートファジーの制御機構はA群レンサ球菌感染状態では機能していないことが考えられた. 一方, Bc1-2と同じ細胞死抑制因子であるBc1-xL, Bc1-wよびBc12A1の強発現細胞では, 細胞死とオートファジーの両者が抑制された. また, オートファジーの抑制に伴い, これらの細胞内では本菌の分解も抑制され, 本菌の細胞内生存数は顕著に増加した. 細胞質内の活性酸素種(ROS)産生の増加がオートファジーの誘導を促進することが報告されているが, Bc1-xL, Bc1-wよびBc12A1強発現細胞において, さらなるROS産生の抑制/増加は認められなかった. これら3つのBc1ファミリータンパク質とオートファジー関連タンパク質(Atgタンパク質)の相互作用を免疫沈降法あるいはプルダウンアッセイを用いて解析したところ, Bc1-wとAtg7が細胞内で直接結合することが明らかとなった.
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今後の研究の推進方策 |
これまで行ってきた一過性の強発現系およびノックダウン系の実験では, 細胞の量や状態によって実験結果にバラツキが見られることがあった. そのことから, 恒常的に強発現ならびにノックダウンさせた細胞株の構築を行っている. 先に記述したオートファジーと細胞死の両者を制御すると考えられる因子については, これらの系の他に, CRISPR-Cas systemを応用したゲノムエディティングによってノックアウト株を作製し, 追試ならびに, 両細胞応答の制御メカニズムの詳細を解析する予定である.
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