研究課題/領域番号 |
12J06931
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
佐藤 翔馬 首都大学東京, 理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | ショウジョウバエ / シナプス可塑性 / カルシウムイメージング / キノコ体 / cAMP / TRPチャネル / 長期抑圧 / 神経科学 |
研究概要 |
本研究は脳で発現するPainless (Pain) TRPチャネルの神経可塑性における生理的な役割の解明を目的として、ショウジョウバエ摘出脳を用いたカルシウムイメージング実験を行っている。本年度は前年度に確立した電気刺激実験系を用いて以下の成果を得た。 1. 蛍光カルシウムプローブGCaMP3をキノコ体に発現させた摘出脳の触覚葉へガラス電極を用いた電気刺激を行うと、投射先であるキノコ体におけるカルシウム応答が測定できる。この電気刺激を1秒おきに数十回繰り返し行うと、その後の電気刺激に対する(触覚葉/キノコ体シナプスを介した)カルシウム応答が低下する現象を見出した。 2. ショウジョウバエの学習と記憶において、キノコ体におけるcAMPシグナル経路が重要な役割をしていることはよく知られている。アデニル酸シクラーゼ(rutabaga ; rut)突然変異体とホスホジエステラーゼ(dunce ; dnc)突然変異体の摘出脳に対して連続刺激を行った結果、rut突然変異体においてはカルシウム応答の低下は観察されず、dnc突然変異体においては野生型よりも顕著な応答の低下が観察された。よって連続刺激により誘導されるキノコ体の応答性低下は、哺乳類における長期抑圧のようなシナプス可塑性を反映していると考えられる。 3. Pain TRPチャネルがキノコ体における神経活動に直接関与しているか調べるため、摘出脳に電気刺激や(Pain TRPチャネルを活性化させることが知られている)熱刺激を行ったがPain TRPチャネル依存的な応答は観察できなかった。また、pain突然変異体の摘出脳に対して連続刺激行ったところ、カルシウム応答の減少は観察されたがその持続時間が低下していた。よってPain TRPチャネルはシナプス可塑性の形成ではなく、維持に関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
キノコ体の神経活動におけるPain TRPチャネルの寄与を直接観察することはできなかったが、(今後の実験系となりえる)成虫脳の神経可塑性を評価する新たな現象を見出せたため、おおむね順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の解析ではPain TRPチャネルを介したカルシウム応答は観察できなかった。そこで、現在使用しているGCaMP3よりも感度の高いカルシウム蛍光プローブであるGCaMP6や、シナプス小胞の開口放出に反応する蛍光プローブ(synapto-pHluorin)を用いることで、神経活動におけるPain TRPチャネルの役割を再評価する。本研究において見出したシナプス可塑性現象について、薬理学的・遺伝学的手法を組み合わせることで必要な神経回路や分子の同定をおこない、ショウジョウバエ成虫脳におけるシナプス可塑性の分子機構を解析する。
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