哺乳類の腎臓である後腎の発生は、上皮管である尿管芽が後腎間葉へ伸長、侵入することで開始する。後腎間葉はその後、尿管芽を取り囲むキャップ状間葉とその外側を囲む間質細胞に分化し、尿管芽はそれらと相互作用して、分岐形態形成を起こす。この過程には、多様なシグナル伝達経路が協調して働くことが知られている。その中で、尿管芽の突出とその後の分岐形態形成で、重要な役割を果たすシグナル経路のひとつにレチノイン酸 (RA) シグナル経路がある。しかし、腎臓においてRAシグナル経路が転写制御している遺伝子について、これまで詳細な解析は行なわれていなかった。 そこで私は、採用第一年度に、マウス胚から摘出した腎臓を単離し、培養するin vitro培養系を立ち上げ、マイクロアレイを用いて、単離培養した腎臓における網羅的遺伝子発現解析を行なった。その結果、RAの添加によって発現量が上昇する遺伝子を33個同定した。また、RARアンタゴニストの添加によって、同定したRA応答候補遺伝子の多くで、発現量が減少することを示した。採用第二年度に、RA応答遺伝子の中から分泌因子Tnfsf13bとIL-33に着目し、単離培養した腎臓を用いたホールマウントin situハイブリダイゼーション実験により、Tnfsf13bならびにIL-33はそれぞれ間質細胞で、RAによって発現が誘導されていることを示した。 Tnfsf13bとIL-33はどちらも下流でNF-kappaBを活性化することが知られている。そこで採用第三年度に、腎臓の初期発生へのNF-kappaBシグナル経路の関与について調べるため、単離した腎臓を、2種類のNF-kappaBシグナル経路の阻害剤をそれぞれ加えて培養した。すると、どちらの阻害剤を加えた場合も、尿管芽の分岐形態形成が著しく阻害され、尿管芽先端を取り囲むキャップ状間葉が消失した。
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