国の難病に指定されている潰瘍性大腸炎は現在も根本治療法が見つかっていない炎症性腸疾患(|BD)の一つである。本研究はIBDにおける血中亜鉛濃度低下の原因を解明し、食事等を利用した亜鉛での腸炎緩和および予防へと展開する研究基盤を確立することを目的とした。IBD患者で観察される血中亜鉛濃度の低下は、摂食量の低下からくる亜鉛摂取量の減少や吸収不良の結果であると考えられているが、詳細な機構は不明であり、その他因子の影響も考えられる。しかしながら亜鉛濃度の変動と大腸炎発症の関連は明らかにされていない。今年度はデキストラン硫酸ナトリウムによって実験的に大腸炎を誘導し、体内の亜鉛動態および腸炎の進行を評価した結果、IBD患者と同様にデキストラン硫酸ナトリウム誘導性大腸炎においても亜鉛レベルが変動することを見いだした。これまでの申請者らの研究によって、一見特徴的な影響がみられない軽度の亜鉛欠乏レベルでも腸炎症状が悪化することが明らかとなっており、腸疾患に伴う体内の亜鉛動態の変動は腸疾患リスクと関連していると推察される。亜鉛レベルの保持は腸疾患制御に重要である可能性がある。体内での亜鉛レベルを制御している亜鉛輸送体(ZntおよびZipファミリー)発現に着目し、十二指腸、空腸、回腸、結腸といった消化管でのmRNA発現解析をした結果、一部の亜鉛輸送体が変動することを見いだした。現在、腸疾患に伴う亜鉛輸送体の変動機構を検討中である。
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