腸上皮の恒常性は、陰窩に存在する幹細胞から、細胞増殖、多種類の機能細胞への分化、さらにそれらの細胞の移動、アノイキスがそれぞれ適切に制御されていることによって保たれている。私は、腸幹細胞が幹細胞性をいかに維持し、そして、分化する際にどのように運命決定がされることによって腸上皮の恒常性を保っているかに興味をもっている。 私は腸上皮細胞の研究をする上で、二つの系を用いている。一つ目は過去に報告されているin vitroの系で、複数の絨毛と陰窩をもつ自己組織体(オルガノイド)を培養する系である。二つ目の系は、マウスの小腸で腸上皮細胞特異的に遺伝子導入を行う系である。この系の利点は、in vivoで比較的容易に遺伝子のノックダウンが行える上に、短期間で解析ができるところである。このin vivoの系でエピジェネティック因子のひとつをノックダウンしたところ、陰窩と絨毛両方で腸上皮の細胞数に顕著な変化が起こることが観察できた。さらに、免疫染色を行ったところ、増殖細胞の数が変化していることも確認できた。ただ、全ての種類の細胞の数が一律に変化しているわけではないことも観察できた。この結果は、ノックダウンを行った因子によって腸上皮の恒常性が維持されることを示唆している。現在、このエピジェネティック因子と協調的に働く別の因子のノックダウンによる解析を行っている。このような解析によって、幹細胞の増減や、特定の分化細胞の増減が観察できれば、腸上皮の恒常性を維持する遺伝子ネットワークを解明できると考えている。
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