研究実績の概要 |
昨年度までの研究から、チューブリンポリグルタミル化酵素Ttll9を欠損する雄マウスは雄性不稔を示すことを明らかにした。またTtll9欠損精子は精子頭部のフックのカーブと反対方向(アンチフック側)に屈曲した後で一過的に停止(アンチフックストール)しやすい傾向が見られた。 本年度はアンチフックストールの原因を詳細に調査した。最初に軸糸微小管の配置と頭部のフックの方向との相対位置関係を明らかにするため、透過型電子顕微鏡観察を行った。その結果、マウス精子ではダブレット5-6番がアンチフック側に位置していることが明らかになった。 続いて、Ttll9欠損マウス精子のポリグルタミル化レベル低下と、アンチフックストールの関連性について検討を行った。申請者はTTLL9の各ダブレットへの親和性が異なり、特定のダブレットをより強く修飾しているのではないかと考えた。この仮説をテストするため、精子をpost-embeddingイムノゴールド法を用いて染色し、9本のダブレット微小管および中心対微小管を標識する金コロイドを計数した。コントロールとして用いた抗チューブリン抗体では全ての微小管サブセットが均一に標識された。野生型マウスについては精子軸糸の9本のダブレット微小管のうち、1, 5, 6, 9番ダブレットのポリグルタミル化レベルが高いという過去の報告を再現した。一方、Ttll9欠損精子の鞭毛では、全体に修飾レベルが低下し、中でもダブレット5番のポリグルタミル化低下レベルが最も大きいことが示唆された。ダブレット5番はアンチフック側への屈曲から反対方向への屈曲の切り替え地点に位置するダブレットである。従って、Ttll9欠損精子ではダブレット5番のポリグルタミル化レベル低下が大きいことにより、アンチフック側からプロフック側への屈曲切り替えが阻害される傾向にあると考えられる。
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