研究課題/領域番号 |
12J07074
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
今任 景一 九州大学, 先導物質化学研究所, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 自己修復 / 架橋ポリマー / ゲル / メカノクロミズム |
研究概要 |
本研究は室温でラジカル的な解離・結合の平衡状態にある化合物DABBFを用いて、ナノマテリアルとDABBFを有する高分子とのハイブリットによる高強度な自己修復材料の開発、及び表面自由エネルギーの小さなフルオロアルキル基の空気中での表面凝集を利用した高修復性材料の開発、またこれら材料の修復機構の解明を目的としている。本年度は特に「溶媒等を含まないバルク状態で修復可能な高分子材料の調製」を目的として研究を推進したが、目的達成には到らなかった。しかしながら、本年度に新たに合成した架橋ポリマーが「通常の化学架橋ポリマーとは異なる温度応答性の特異な膨潤挙動を示す」ことや「ゲル状態において凍結により分子鎖の切断が誘起され、DABBFが優先的に解離してラジカルを生成する」といった興味深い結果を得ることができた。DABBFを有する架橋ポリマーは、低温では通常の化学架橋ポリマーに似た膨潤挙動を示す一方、高温ではDABBFの平衡状態が解離側へと偏るために膨潤し続けるといった温度応答性の膨潤挙動を示した。この挙動は分解性の徐放材料への応用や易分解性のリサイクル性材料への応用が期待できるため、学術的にも産業的にも興味深い結果と言える。また、DABBFを有するゲルを凍結させたところ、ゲルは青色に変色し、このときの電子スピン共鳴法から多量のラジカルが生成していることが分かった。さらに詳細な解析を進めた結果、ゲル中の溶媒の結晶化に伴って分子鎖に歪みが誘起されてDABBFが解離している、つまりメカノクロミズムを示しているということが明らかとなった。電子スピン共鳴法により生成したラジカルの定量にも成功しており、メカノクロミズムを定量した報告はこれまでになく、またこの結果はDABBFを用いた自己修復材料の修復機構の理解へも繋がることから非常に興味深い結果と言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目的の一つであった「バルク状態で修復可能な高分子材料の調製」は達成できなかったものの、新たに合成した架橋ポリマーが示す「通常の化学架橋ポリマーとは異なる温度応答性の特異な膨潤挙動」や「凍結により誘起される分子鎖の切断とラジカル生成挙動」といった興味深い結果を得ており、もう一つの目的である修復機構の解明へと繋がったため。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き「バルク状態で修復可能な高分子材料の調製」を行う。平行してナノマテリアルとしてセルロースナノファイバーを採用し、高分子とのハイブリッドを試みる。
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