研究課題/領域番号 |
12J07121
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
木下 泰輔 慶應義塾大学, 医学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | TERT / ATM / 多能性幹細胞 / 体細胞リプログラミング |
研究概要 |
1.研究の背景、研究目的 体細胞にいくつかの転写因子を導入することで多能性幹細胞が誘導されることが示されているが、そのメカニズムについては未だによくわかっていないところが多い。本研究では造血幹細胞で重要な働きを担い、さらにそれぞれがDNA損傷応答とtelomerase伸長に決定的な働きを持つ因子であるATMおよびTERTに着目し、多能性幹細胞の誘導および維持におけるゲノム安定性のメカニズムを明らかにすることを目的とする。 2.TERTの多能性誘導に関わる機能とその酵素活性への依存性 TERT遺伝子欠損ならびに野生型の体細胞からiPS細胞の誘導を試みたところ、遺伝子欠損からのリプログラミング効率は野生型と比べて著しく低下することがわかった。多能性誘導時におけるTERTの機能を検討するため、酵素活性を欠損させた変異型TERTベクターを遺伝子欠損細胞に導入する実験を計画した。その結果、変異型TERTベクターを導入した場合においても野生型ベクター導入と同程度の誘導効率の改善が見られ、TERTは多能性の誘導において酵素活性以外の機能でも関与していることが示唆された。 3.TERT欠損iPS細胞の動態解析 樹立したTERT欠損iPS細胞を継代し続けたところ、継代数40付近の細胞では野生型と比べて増殖率の低下が観察された。遺伝子発現を調べたところ、多能性関連遺伝子の発現や導入遺伝子のサイレンシングは同様に保たれていた。分化能を評価するため細胞をヌードマウスへ移植したところ、テラトーマを形成しなかった。一方で同じ継代数の細胞を用いて胚葉体形成実験を行ったところ、数日のうちに胚葉体を形成し、その遺伝子発現解析では多能性関連遺伝子の発現低下や、三胚葉で代表的な遺伝子の発現上昇が確認された。これらのことから、継代数40付近のTERT欠損iPS細胞はteratoma形成能を失っているものの、分化能そのものを失っている訳ではないことが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでにTERTの多能性誘導に関わる機能について、TERTの欠損は多能性の誘導効率を減少させること、その際に酵素活性の有無は影響を与えないことを見出している。またTERT欠損が多能性幹細胞に及ぼす影響については、細胞増殖率の変化や染色体異常の蓄積などを見出している。
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今後の研究の推進方策 |
TERTの多能性誘導に関わる機能について、TERTの有無や酵素活性の有無によってどのような遺伝子や経路が影響を受けるのかを明らかにする。TERT欠損細胞に野生型TERTベクターや酵素活性失活変異型TERTベクターを導入し、リプログラミングファクターを導入する前後の時期でサンプルを用意してマイクロアレイ解析を行う。またTERT欠損iPs細胞の動態解析については、酵素活性を失活させた変異型TERTベクターを導入して樹立した細胞で同様の現象が起きるかを調べるとともに、細胞増殖率の変化やテラトーマ形成不全が見られた継代数の細胞を初期、後期の継代数の細胞とともにマイクロアレイ解析にかける。
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