研究課題/領域番号 |
12J07147
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
定家 和佳子 京都大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | FCCS / 定量的パラメーター / 解離定数 / Ras / ERK |
研究概要 |
Ras-ERK情報伝達系は様々な腫瘍の発生に関与することが分かっているが、有効な抗癌剤の開発には至っていない。この一因として、Ras-ERK情報伝達系がきわめて多くの反応からなる複雑なネットワークであることが挙げられる。そこで本研究では、シミュレーションを通じたRas-ERK情報伝達系の包括的な理解を目指す。そのために、シミュレーションの構築に必要なパラメーターを生細胞内で実測し、得られたパラメーターをもとにシミュレーションモデルの構築および検証を行う。以上をふまえ、本年度は以下の3点について研究を実施した。 (1)Ras-ERK情報伝達系を構成するシグナル伝達分子のin vivo Kd値の測定 まず、Ras-ERK情報伝達系を構成するシグナル伝達分子のin vivo Kd値の測定を試みた。実行に際し、自身が前年度までの研究で開発した、蛍光相互相関分光法(FCCS)による生細胞内Kd値測定法を用いた。その結果、本年度で20を超えるタンパク質のペアの細胞内Kd値を測定することに成功した。これは本方法がリコンビナントタンパク質の精製を必要としないために、より短時間での測定が可能になったためであり、この点は本方法のアドバンテージであるといえる。 (2)Ras-ERK情報伝達系を構成するシグナル伝達分子の定量化 次に、もう1つのパラメーターである細胞内の内在性タンパク質の濃度の定量化をウェスタンブロッティングにより行った。Ras-FRK情報伝達系のうち、まだHeLa細胞で測定されていない10種類のタンパク質について、内在性タンパク質の個数と濃度を測定した。 (3)Ras-ERK情報伝達系のシミュレーションモデルの構築 最後に、(1)、(2)で定量化したパラメーターを用いて、図2に示したシミュレーションモデルを構築した。現在、このシミュレーションモデルをもとに数値解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度までの研究で、蛍光相互相関分光法(FCCS)を用いて生細胞内で解離定数値(Kd値)を測定する方法を開発した。当該年度ではこの方法を活用しながら、Ras-ERK情報伝達系の理解につながる一定の成果を挙げることができた。その成果は以下の3点に分けることができる。(1)Ras-ERK情報伝達系を構成する20個以上のタンパク質のペアのKd値を生細胞内で測定したこと、(2)ウェスタンブロッティングにより、Ras-ERK情報伝達系を構成するタンパク質の濃度を定量化したこと、(3)(1)、(2)で得られた値をもとに、Ras-ERK情報伝達系のシミュレーションモデルを構築したこと。これらの研究成果については現在論文執筆中である。また、上記の研究成果を国内外での学会で発表した。特に2013年3月に実施されたThe 10th NIBB-EMBL Symposium 2013では、FCCS研究で著名なThorsten Wohland氏と直接議論することができた。これは次年度以降の研究の進展につながる有意義な機会だったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度に取得した解離定数および内在性タンパク質濃度のパラメーターを基に、Ras-ERK情報伝達系の数理モデルを構築し、シミュレーションを行う。具体的には、CelIDesignerソフトウェアを用いて反応モデルを記述し、さらにMATLABソフトウェアへとエクスポートする。この一連の解析は所属研究室ですでにルーチン化されている。このシミュレーション解析により、Ras-ERK情報伝達系のEGF刺激による入力が、その出力であるERK活性の(1)時間発展のダイナミクス、および(2)入出力応答の2つに及ぼす影響を評価する。さらにそれらを実際の細胞で観察される結果に実装し、妥当性を評価する。
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