研究課題/領域番号 |
12J07151
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
後藤 龍太郎 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | 共生 / 寄生 / 種分化 / 多様化 / 寄生転換 / 寄主特異性 / 適応 / 二枚貝 |
研究概要 |
寄主転換による種分化は、寄生者や共生者の多様化を促進する重要な多様化機構の一つである。しかし、海洋における寄主転換の知見は限られる。そこで本研究では、ウロコガイ上科の共生性二枚貝類を対象として、寄主転換による多様化や寄主利用様式の進化の解明を目指す。この二枚貝類は海底に生息する様々な無脊椎動物の体表や巣穴をすみかとして生活するユニークな習性を持つ。 本年度は、北海道厚岸から沖縄県石垣島まで、各地の干潟・アマモ場・岩礁において、ウロコガイ類の標本収集および生態調査を行った。さらに、得られた標本を用いて分子系統解析を行った。その結果、これまでの知見に加えて、(1)主要な自由生活性の系統が共生性の系統から派生的に進化してきたこと、(2)刺胞動物から腕足動物への寄主転換が起こったこと、(3)日本周辺のみに生息するPseudopythina属では系統的に離れた寄主間での乗り換えが高い頻度で起こっていること、などが新たに明らかになった。これらの知見は、海洋にすむ寄生者や共生者の進化や多様化を理解する上で重要な示唆を与える。 また、鹿児島県奄美大島において季節を通じたウロコガイ類のサンプリングを行った。定期的に採集した標本を今後解析することで、寄主の違いによって、近縁種間で繁殖スケジュールが異なるかどうかを検証する。 さらに、腕足動物の1種ミドリシャミセンガイに共生するウロコガイ上科の新種記載を行った。本種の殻形態は、シャミセンガイ類を寄主とする同属の近縁種の殻形態とは大きく異なっていた。生態観察から、この殻形態の違いは寄主利用様式の違いに起因することが明らかになった。共生性のウロコガイ類では殻形態の多様化が促進されていることが指摘されているが、その要因として寄主の利用様式に応じた形態適応があることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究の目的 : ウロコガイ上科二枚貝類の寄主転換による多様化パターンと寄主特異性の成立機構の解明 研究達成度 : 精力的な野外調査によって、多くのウロコガイ類の生態が新たに明らかになった。さらに、分子系統解析によって、Pseudopythiha属の寄主転換による多様化パターンがより詳細に明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
ウロコガイ上科には、複数の寄主を利用する種が知られている(マゴコロガイなど)。今後、これらの種を対象に分子実験を行うことで、寄主間で遺伝的に分化した寄主レースが存在するかどうか検証する予定である。また、ウロコガイ類は、系統的に離れた寄主間での乗り換えを繰り返すことで多様化を遂げてきたことが明らかになっている。多くの寄生者や共生者では寄主転換の範囲は寄主の系統に制約されるため、このようなパターンは稀である。今後は、寄主転換にともなう食性や寄主利用様式の変化に着目し、なぜこのような寄主転換が可能だったかを明らかにする。
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