研究課題/領域番号 |
12J07183
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
尾川 満宏 広島大学, 大学院・教育学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 地方 / 若者 / 学校から仕事への移行 / グローバル / ローカル / エスノグラフィー / 人文地理学 / 空間論的転回 |
研究概要 |
本年度は、地方の若者たちによる「学校から仕事へ」および仕事を中心とした「大人」への移行の過程を明らかにするため、研究方法に関する理論的な検討および地方郡部でのフィールドワークにもとづく事例分析を行った。 研究方法について、若者たちの移行経験を地域特性に応じて把握するため、以下2つの観点から調査および記述二解釈上の方法をめぐる理論的な考察をすすめた。第一に、グローバリゼーション論における「文化」に焦点を当てた議論に着目し「ローカリティ」の概念を明確化した。第二に、英語圏人文地理学の若者文化研究における視座を参考にしつつ、若者たちの移行経験にローカリティを見出すための認識枠組みを提示した。これらの作業から、若者たちが「地元」という空間的なローカリティとの間に相互作用を経験する過程をとらえる、本研究の理論枠組みを設定した。 事例分析では、以下2つの質的調査にもとづく記述=解釈を行った。「若者調査」では、調査協力者たちの離転職をめぐる経験に着目し、無計画な早期離職や行き当たりばったりの再就職などを「地元」流のキャリア形成をめぐる物語として組織化するかれらの解釈実践のプロセスを明らかにした。「専門高校調査」では、生徒指導の内容と方法をめぐる学科間の分化が、学校ランクや地域的な新規高卒労働市場など学校をとりまくローカルな社会的文脈に対する教師の認識にもとづいていることを明らかにした。 総じて、若者たちが経験する「移行」の具体的な過程と意味に地域=空間的な視座からアプローチする方法と、調査協力者たちの移行経験(キャリア形成や職業的社会化のプロセスなど)が「地元」のローカリティと相互作用的に構築されていることが、明らかになった。これは、従来の移行研究が十分に説明してこなかったことであるが、それぞれの若者たちに「生きられた」移行過程と現代の社会変容を理解するための重要な論点であろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、当初計画していた事例分析に加えて理論的考察にも着手することができた。したがって、本研究の理論的基盤や、それにもとづく各分析事例の位置づけなどがある程度定まり、研究全体の見通しと結論が当初の計画よりも早期に明確になった。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度には、平成24年度中に検討した理論について、さらに多角的かつ精緻な検討をすすめる必要がある。 とりわけ、日本の教育社会学研究に空間論的な視座を導入するために、英語圏人文地理学領域における若者文化研究の理論と実証的知見をより一層精緻に検討する。具体的には、日本の社会学や人文地理学の研究動向とグローバリゼーション論を参照しながら、より広い視点で上記若者研究の意義を問い直す作業を行う。加えて、英国ニューカッスル大学に数ヶ月にわたって滞在し、資料・文献収集や研究会への参加、フィールドワーク、現地研究者との共同研究の打ち合わせ等を含む、訪問研究を行う予定である。
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