研究概要 |
マイクロ熱流体デバイスの更なる性能向上・新機能発現のためには,微小空間特有の熱流動現象を詳細に把握する必要がある.しかし色素や粒子を流れ場に添加する従来のセンシング法では,混入物による潜在的制約が不可避であった.これに対して本研究課題は,ラマン散乱光に着目することで混入物を必要としない理想的な非侵襲熱流動センシング法を開発し,それを異なる物質同士の界面(異相界面)に適用することによりマイクロ・ナノスケールにおける界面熱流動現象について考察することを目的とする.平成24年度はその第一段階として,本研究の根幹となるセンシングシステムの構築ならびに濃度や温度の非侵襲センシング手法の開発を下記の通り実施した. 1.液流および気流を対象とした非線形ラマンセンシングシステムの構築,ならびに流路内イオン濃度非侵襲センシング法の開発:フェムト秒パルスレーザ,光パラメトリック発振器(OPO),非線形光学結晶(SHG結晶),EM-CCDカメラ,各種光学部品(フェムト低分散ミラー,光学フィルタなど),倒立顕微鏡を組み合わせ,非線形ラマン散乱光の一種であるCARS光を発生させるシステムを構築した.更に上記システムを用いて,濃度の異なる電解質溶液(Na_2SO_4,NH_4Cl溶液)や気流(CO_2,イオン化させたCO_2)を満たした微小流路内で,各試料に特徴的なラマンシフトにおけるCARS光強度の計測を行った.その結果,各試料について濃度とCARS光強度の関係を表す較正曲線の取得に成功し,CARSによる非侵襲なイオン濃度計測の可能性が示された. 2.二波長ラマンイメージングによる流路内温度分布非侵襲センシング法の開発:2台のEM-CCDカメラ,2種類の光学フィルタ等を組み合わせることで,2つの波長帯における自発ラマン散乱光の同時イメージングシステムを構築し,流路内温度分布の定量的可視化を実現した.上記光学システムは,今後温度・濃度同時計測や複数種の物質の濃度同時計測を行う際にも有効と考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに,非線形ラマン散乱センシングシステムを液流・気流それぞれについて構築し,イオン濃度センシングを行う際に予め必要となる較正曲線の取得までを達成することができた.また,2つの波長帯を同時イメージングする光学システムを開発し多変量同時計測への足掛かりを作った.目標としていたイオン濃度からの速度算出に関しては未達成であるが,今後取り組むイオン濃度の時系列計測の結果に基づき速度算出を行う予定である.
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今後の研究の推進方策 |
1.励起光源であるフェムト秒パルスレーザの強度や波長,パルス幅の時間的な揺らぎによりCARS光強度が変動するという問題が生じた.そのため今後は2台の顕微鏡上で同時にCARS光を発生させ,両者の強度比を算出することで揺らぎの影響を低減することとする. 2.液流中のCARS光をカメラで撮像する際,フィルタで除去し切れない励起光がカメラに映り込んでしまう問題が生じたため,分光器を用いてCARS光のみを計測する方法を採用した.そのため濃度分布をイメージングするためには,試料若しくは励起光の走査が必要となる.今後は電動マイクロステージにより試料を操作することで濃度分布の取得を行う.
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