研究概要 |
マイクロ熱流体デバイスの性能向上・新機能発現に向けて, 微小空間特有の熱流動現象を計測する必要があるが, 色素や粒子を流れ場に添加する従来法では混入物による潜在的制約が不可避であった. 本研究課題は, ラマン散乱光に着目することで混入物に頼らない非侵襲熱流動センシング法を開発し, 異なる物質の界面(異相界面)に適用することでマイクロ・ナノスケールの界面熱流動現象について考察する. 平成25年度は, 非線形ラマンセンシングの異相界面への適用に向けた足掛かりとして, 全反射自発ラマンイメージング法の開発を行った. また, 複数成分の濃度計測や多変量同時計測に向け, 非線形ラマンセンシングの混合場への適用ならびに二波長ラマンイメージングによる温度・速度同時計測法の開発に着手した. 1. エバネッセント波照射による全反射自発ラマンイメージングシステムの構築および固体・液面極近傍における濃度分布非侵襲センシング法の開発 : レーザ, プリズム, 倒立顕微鏡, EM-CCD カメラ等を組み合わせて, 界面極近傍のみをセンシング可能な全反射自発ラマンイメージングシステムを構築した. 更に上記システムを用いて微小流路内の H_2OとD_2O の混合場を対象とする濃度分布計測を行った結果, H_2OとD_2O のそれぞれについて非一様な分布が可視化され, 固液界面極近傍における非侵襲な濃度計測に成功した. 2. 非線形ラマンセンシングシステムを用いた, 複数成分を含む液流および気流中における濃度分布の非侵襲計測 : 前年度構築したCARS光(非線形ラマン散乱光の一種)センシングシステムを用いて, 複数成分を混合させた電解質溶液(Na_2SO_4とNH_4Cl)や気体(CO_2とN_2)を満たした流路内で, 各成分の濃度分布計測を実現した. 3. 二波長ラマンイメージングによる温度・速度同時計測の開発 : 前年度開発したイメージングシステムを利用して時系列で水温分布計測を行い, 温度分布の時間的変化から算出可能な速度範囲等に関して検証を行った.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに, 非線形ラマン散乱センシング法を用いて, 二種類以上の成分から成る液流や気流について各成分の濃度分布計測を達成することができた. また, 多変量同時計測の実現に向けて, 温度分布の時間的変化から速度を算出するための撮像条件や速度範囲に関する知見を得ることができた. 更に, 全反射自発ラマンイメージングによる界面極近傍の非侵襲計測にも成功しており, 今後取り組む予定の非線形ラマン散乱による界面熱流動計測実現に向けて, その足掛かりとなる結果が得られたと考えられる.
|
今後の研究の推進方策 |
今後は, 本年度得られた結果に基づき, エバネッセント波照射非線形ラマンセンシングシステムの構築, 及び界面極近傍での多変量同時計測を目標として研究課題を推進する. 具体的には, 前年度構築した非線形ラマンセンシングシステムにダブルプリズム式のエバネッセント波照射装置を組み込むことにより, 固体・液体界面極近傍からの情報を高時空間分解能で計測可能な光学システムの構築を目指す. また, 上記システムを用いて計測された温度・濃度等のスカラー量の時間的変化から流体速度の算出を行い, 多変量同時計測を実現する. なお, 上記の研究計画を遂行する上で, 以下の2点についての検証も実施する予定である. 1. 全反射ラマンイメージングシステムを用いて得られた界面極近傍の計測結果と, バルクにおける計測結果を比較することにより, 全反射ラマン散乱による界面熱流動センシングの妥当性を検証する. 2. 現在までの取り組みの中で, ①液体同士の混合場において屈折率差による散乱光強度の揺らぎが生じる, ②チャネル素材であるガラス壁面からの散乱光の影響が無視できない等の問題が生じたため, それらの影響を補正もしくは除去するための実験方法・条件等に付いて検証を行う.
|