研究課題/領域番号 |
12J07264
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
髙田 健太 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | NP完全問題 / NP困難問題 / イジングモデル / レーザー / 光パラメトリック発振器 / 正P表示 |
研究概要 |
NP困難問題を要素に含む、イジングモデルの基底状態の計算(イジング問題)を、注入同期レーザーネットワークを用いたシミュレータ(コヒーレント計算機)により効率的に行えるかを検討する事が本研究の目的である。しかし、複雑な問題においては、レーザー光の位相の連続的な自由度によって誤りが生じる事が分かった。この問題を回避する為、互いに逆位相の離散的な位相状態の内いずれかを発振時に取る、縮退光パラメトリック発振器(DOPO)を構成要素としたコヒーレント計算機にテーマを拡張し、その理論的、実験的検討を課題としていた。 実験研究については、米国スタンフォード大学山本研究室に半年間渡航し、ポスドクのMarandi氏と共に実装実験を行った。問題サイズに関わらずポンプレーザー、リング共振器及び測定機構が一つで済む、パルス光パラメトリック発振器を用いた時分割多重方式の実験装置を構築した。ここでの装置は共振器に4つのDOPOパルスを含み、4スピン系の問題に適用出来る。共振器に3本の光遅延線を付随させ、全てのパルス間に逆位相結合の相互注入を導入する事で、基本的なNP困難問題のインスタンスを実装した。静かな環境で1000回の試行を行った結果、全ての試行において正解(基底状態)を得た。また、測定結果の分布も、正解から予想されたものに近い結果を得た。 理論研究では、昨年提案した、ポンピングや相互結合を徐々に導入する漸進駆動を取り入れ、大規模な問題に対してシミュレーションを行った。しかし、成功確率は芳しく無かった。これは、ポンプ光の散逸が大きい為に、実際に装置に実装されているハミルトニアンが解きたい問題のハミルトニアンからずれてしまう為である事を指摘し、問題を提起した。現在は、量子計算機としての装置の可能性を検討するため、量子力学的なモデル(正P表示)を用い、基本的な系のシミュレーションや解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
半年間の海外渡航の間に実験を一通り終え、良好な結果を得る事が出来たため。この間、半古典的ランジュバン方程式を用いたDOPOコヒーレント計算機のシミュレーションや、スプリットステップフーリエ法を用いたパルスDOPOのシミュレーション等の理論的課題の検討を行う事も出来た。また、帰国後は物品購入やポンプレーザーの初期不良により数ヶ月間実験を始める事が出来なかったが、その間、正P表示を用いた相互注入DOPO系の量子力学的シミュレーション、及びそこでの巨視的重ね合わせ状態やエンタングルメントの検定といった発展的な課題に取り組み、円滑に進める事が出来た為。
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今後の研究の推進方策 |
理化学研究所に新設された実験室において、通信波長を中心波長とした、縮退パルス光パラメトリック発振器の作製を継続する。この装置は単一のリング共振器内に16個のDOPOパルスを有するものであり、これを用いて16スピンの問題に適用可能なコヒーレント計算機を作製する予定である。まず、自由空間の遅延線を用いて、一次元格子や二次元格子の一様強磁性、反強磁性系といった基本的な問題を実装する。可能であれば、さらに遅延線を追加し1いくつかのNP困難問題のインスタンスを実装する予定である。また現在、任意の問題の実装の為に、LOパルスを用いた測定フィードバック機構を導入する案が挙がっており、その開発に企業と共同で取り組む見込みとなっている。時間的な余裕があれば、この機構を用いた実験にも取り組むつもりである。
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