研究概要 |
多変数変分モンテカルロ法(VMC)を用いたトポロジカルモット絶縁体の研究 本研究では、近年グラフェンなどで実現されるディラック電子のようなゼロギャップ半導体において、電子相関の効果で新奇の量子相が出現する可能性を探るべく、VMCを用いた数値計算を試みた。ゼロギャップ半導体とは、従来の金属が持つフェルミ面が点として存在する物質群のことであり、特異な輸送現象を示すことから、近年大きな注目を集めている。フェルミ点ではエネルギー準位が縮退していて、対称性が保たれる場合、ギャップは開かない。このような系にスピン軌道相互作用がはたらくことによりギャップが開くと、系はしばしばトポロジカル絶縁体になり、これはエッジでの特異な伝導特性や基礎物理的な観点から注目を集めている。一方、スピン軌道相互作用が無い場合でも、ゼロギャップ半導体の対称性が電子相関により破れて系がトポロジカル絶縁体になる可能性があり、これがトポロジカルモット絶縁体[1,2]と呼ばれる系であり本研究の課題である。この現象はトポロジカル絶縁体の実現可能性を従来の理論で提唱されていてスピン軌道相互作用の強い系から電子相関を持つ一般の系に拡張するものであり、また量子相転移としても特異な性質を持つことから関心が持たれている[3]。この概念を発表した先行研究田では平均場近似によるもの解析がなされていたが、本研究では多体の効果をより正確に取り入れるためにVMCを用いる。 まず、アルゴリズムについては田原氏が当研究室で以前に発表したアルゴリズム[4]をベースに改良を行った。当初のコードではトポロジカル絶縁体の波動関数が表現できないため、すぐには本研究に用いることができなかったが、波動関数を複素数にまで拡張しそれに対応した最適化手法を考案、および実装することによってこの問題を解決した。また、計算の並列化による高速化については森田氏に協力していただいた。 計算はハニカム格子系で行い、これにオンサイトのクーロン相互作用uおよび周辺サイトとのクーロン相互作用V1, V2を導入した。その結果、今までの平均場での研究と比べてトポロジカルモット絶縁体の領域は他の秩序相に潰されてしまい、大きく制限されてしまうことがわかった。しかし、トポロジカルモット絶縁体の概念そのものが平均場近似による人為的な結果ではなく、VMCの波動関数でも実現することを示す計算結果もバンドのパラメーターをコントロールすることで得ることができた。実際に、ハニカム格子上の六角形の対角線上のホッピングパラメーターをコントロールすることでトポロジカル絶縁体のオーダーパラメーターをサイズ外挿した場合でも残ることを見いだした。また、その臨界性についても、具体的な数値の特定まではいかないものの、従来型の相転移とは異なる様子が得られた。
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