研究課題/領域番号 |
12J07351
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
秋田 鉄也 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | マイクロRNA / 進化 / トランスクリプトーム / 遺伝子重複 / 種分化 / ゲノミックコンフリクト / セントロメア |
研究概要 |
私は、進化動態の数理モデルとオミクスデータの利用を両輪とした進化理論の構築を目指している。本研究では、数理モデルを用いた種の分岐過程の解明に、ゲノム解析およびトランスクリプトーム解析が有効であることを示す。2012年度は、1:発現制御機構の複雑性進化、2:利己的なセントロメアを介した種分化過程、について集中的に取り組んだ。 1,発現制御機構の複雑性進化 発現制御パターンの複雑化は、そのシステムの進化にどのような影響をもたらすか調べるために、制御機構の進化を理論モデルとして構築し、その解析結果をArabidopsisのゲノムデータを用いて検証した。マイクロRNA(以下、miRNA)を制御因子として選択し、進化の方向性として、miRNA遺伝子のコピー数とそれらが制御対象とする遺伝子機能の数に着目した。 解析の結果、miRNA遺伝子のコピー数増大が制御可能な機能数を減少させるとするモデルが、Arabidopsisのデータを良く説明した。これは、miRNAの遺伝子重複を通じて複雑化された発現制御機構は、少数機能の制御に特化する傾向があることを示唆する。本研究は、miRNA遺伝子と発現制御機構との共進化を、ゲノムレベルで理論構築した先駆的な研究であり、国際誌に発表された。 2,利己的なセントロメアを介した種分化過程 セントロメアは、真核生物の細胞分裂時に染色体を娘細胞に均等分配する機能を持った染色体領域であり、高等真核生物において、そのDNAは反復配列から構成されている。雄の減数分裂時に、その反復配列数が異なる染色体間の対合は弱有害性をもたらす。一方、雌の減数分裂時には、反復配列が多い染色体の方がより多くの紡錘糸を引き寄せることで、卵として残りやすい傾向にある。本研究では、そのような利己的なセントロメアが駆動するゲノム間コンフリクトが、生物種の分岐過程に与えた影響を理論的に調べた。その解析結果はまとめられ、現在投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
種分化過程に関する発現データ解析には時間がかかり、まだ投稿には至っていないが、発現制御機構に着目した理論研究については国際誌に発表できた。上記の「9.研究実績の概要」にはスペースの都合上載せていないが、バクテリアのゲノムデータの解析にもかなりの時間を費やし、その種分化過程について新たな方向性を模索しつつある。これらの成果は、2013年度および2014年度に国際誌への発表という形で現れることが期待される。以上より、3年間というスパンで考えれば、1年目としては順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度は、利己的遺伝因子が駆動する種分化過程の研究について投稿する。同時に、セントロメア領域におけるDNA配列の種間比較を進める。2013年度の夏には、セントロメアが駆動する種分化を実験的に調べている研究者が来日するため、そのときに詳細な打ち合わせを実施し、将来における共同研究として発展させたい。また、バクテリアのゲノム多型データを解析するためのソフトウェア開発も完成しつつあるので、ソフトウェアリリースの論文を執筆する。同時に、バクテリアの種分化過程についてもそのソフトウェアの応用例として結果をまとめる。
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