マスト細胞にこれまで存在することが提唱されてきたサブセットとは異なるマスト細胞サブセットが存在することを明らかにするため、マスト細胞において重要な役割を果たしている分子を探索し、アレルギー等でマスト細胞の機能への関与が報告されているスフィンゴシン-1-リン酸受容体に着目し研究を行ってきた。また、マスト細胞が重要な役割を果たしている疾患である炎症性腸疾患においてもこれらの分子は重要な役割を果たしていることが知られている。しかし、スフィンゴシン-1-リン酸受容体のうちSIP2受容体は炎症性腸疾患における機能が知られていない。これを明らかにするため、野生型マウスとSIP2欠損マウスにデキストラン硫酸ナトリウムによる炎症性腸疾患モデルを誘導したところ、SIP2欠損マウスにおいて、野生型マウスと比較して激しい体重の減少が観察された。このとき、野生型の腸管では見られない組織の炎症像、マスト細胞の活性化、好中球の浸潤がSIP2欠損マウスでは観察された。さらに、ILCやマクロファージなどといった炎症性細胞の増加も観察され、SIP2が欠損することで炎症の増悪化が引き起こされることがわかった。炎症の増悪化の原因として、COX-2分子に着目した。この分子は腸管の粘膜バリアーを強化し、炎症性腸疾患の防御に働くことが報告されている。一方で、このCOX-2はSIP2によって産生が制御されるという報告もこれまでにあることから、各マウスから得た細胞におけるCOX-2の産生を比較したところ、SIP2欠損マウスの血管内皮細胞やILCから産生されるCOX-2の産生量が野生型マウスより減少していることが示唆された。これにより、COX-2による粘膜バリアー形成が低下していることが考えられた。よって、粘膜バリアー機能を評価するためにFITC-dextranを用いた実験を行ったところ、SIP2欠損マウスではバリアー機能の低下が起きている可能性が示唆された。
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