研究課題/領域番号 |
12J07388
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
貴田 潔 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(PD)
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キーワード | 有明海 / 筑後平野 / 内海地域 / ホリ(クリーク) / 灌漑体系の復原 / 小地名の記録 / 古老の記憶 / 開発史・環境史 |
研究概要 |
本研究の目的は環有明海地域をフィールドとして、開発史・環境史の視点から中世の地域社会・荘園制の構造を地理的な空間のなかで捉えることにある。当該年度に関しては、具体的な調査予定地をやや変更する形ながらも、研究実施計画に準じて佐賀県・福岡県における現地調査を実施した。 佐賀県域では、太良町の竹崎島での調査を行った。竹崎島は13世紀から史料に現れる島で、その中心に位置する竹崎山観世音寺では、伝統的な正月行事として修正会鬼祭りが営まれてきた。但し、近年では、後継者不足の影響を受けて、行事の一部が省略されるなど修正会鬼祭りの変容が大きい。当該年度の調査では、この祭礼の変容の問題を中心として、タイラギ漁・コハダ漁など生業の在り方、島内と海上の小地名、木造船の利用、有明海を取り巻く島原・柳川など他地域との関わりなどについて聞き書きを行った。今後、平井坊文書(東京大学史料編纂所所蔵謄写本)などを利用して中世の竹崎島の様相を復原するとともに、聞き書きの記録は個別の研究ノートとして発表したい。 福岡県域では、主に矢部川流域の筑後国水田荘故地(筑後市南部)での調査を継続的に行ってきた。この地域では、既に大規模な圃場整備事業が完了したため、地元で「ポリ」と呼ばれてきたクリークも失われており、中世以来の灌漑体系の在り方が大きく変貌している。そこで、地元に住まう古老の方々からの聞き書きを通じて、旧来の水利慣行、踏み車の利用や馬耕を伴う農業の在り方、ポリ・井堰・耕地などに関する多様な小地名を記録することを行った。加えて、筑後市郷土資料館、花宗用水組合などで近世・近代史料の調査(目録作成・撮影・翻刻)を行い、耕地経営や灌漑に関する多くの史料を確認することができた。今年度に記録しえたこれらの成果は、続く次年度に筑後国水田荘故地調査報告書(仮名)を刊行することで、学界と社会に公開する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度では、研究実施計画を超える合計日数で現地調査を遂行することが出来た。但し、調査対象地については、佐賀県域でも福岡県域でもやや限定された地域となった。交付申請の時点での想定よりもやや局地的な調査となった観がある。しかし、調査の内容そのものに関して言えば、次年度に筑後国水田荘故地調査報告書(仮名)の刊行を予定するなど、密度の濃い、極めて充実した成果をあげることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
次年度でも、当初の計画に沿った形で、熊本県域・長崎県域における現地調査を実施する。 一方で、当該年度に実施した佐賀県域・福岡県域での調査の内容については、次年度における報告書の刊行、査読論文・研究ノートの投稿、学会での口頭発表を通じて、成果の公開を行い、学界と社会へ還元していきたい。 なお、当該年度・次年度の調査対象地(佐賀県域・福岡県域・熊本県域・長崎県域)について、調査成果の整理・分析の段階で補充の追加調査が必要と判断された場合、最終年度の期間と予算をそれに充てることを対応策として考えている。
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