採択期間の最終年度であり、研究実施計画では前年度までの現地調査にもとづく成果の公開を目標に定めていた。具体的には(ⅰ)村落に関する総合的な報告書の刊行と(ⅱ)個別の学術論文の発表である。 概ね上記の目標を達成するとともに、佐賀県・福岡県・熊本県・長崎県の各県域で最終的な補充調査を実施することができた。 (ⅰ)の成果としては、『筑後国水田荘故地調査報告書 地誌編・史料編補遺』を刊行した。前年度の『筑後国水田荘故地調査報告書 史料編』が近世・近代史料の目録と翻刻を主としたのに対して、本書では古老の方々からの聞き書きを収録した。水田荘故地(現福岡県筑後市)は太宰府天満宮関係史料に多く現れる重要な中世荘園の故地でありながら、昭和62年から大規模な圃場整備事業が実施されてきた地域であった。しかし、旧来の景観に関して、聞き書きのなかで古老の方々の記憶を記録できたことは大きな達成点であった。さらに、地域に残る考古資料・文献史料の概要を踏まえることで、現代につづく村落の変遷を整理することができた。 (ⅱ)の成果としては、2本の論文、漁村地域に関する「環有明海地域における海辺寺院の存立」、農村地域に関する「筑後国広河荘故地を歩く」を発表した。両者はともに中世寺院を中心に形成された集落に関する研究であり、それぞれ漁村と農村における集落のあり方を景観の視点から論じることができた。 なお、3年間の採択期間における最終的な補充調査として、各県域での現地調査を実施できた点も強く述べておきたい。特に、重要な調査実績として、長崎県雲仙市の大川地区に関するものが挙げられる。中世の大河村に相当する地区であり、13世紀初頭には田地の耕作のほか、畠地で桑が栽培されていたことが知られる。地元の方々からの聞き書きでも現代の養蚕のあり方を知ることができたが、今後、中世から現代に至る村落景観の変遷を考える上で貴重な情報になった。
|