難治性てんかんの治療法である迷走神経刺激療法の作用機序解明に向けて,当該作用において重要な役割を果たすと考えられている青斑核の単独培養系,海馬と青斑核の共培養系を構築し,それらのダイナミクスについて評価した. 青斑核と海馬の in vitro 共培養系の構築に向けて,培養方法が確立されていなかった微小電極アレイ(MEA; Microelectrode Array)を用いた青斑核の培養系を確立し,単独培養系におけるダイナミクスを評価した.その結果,青斑核由来培養神経回路網は,海馬や大脳皮質由来培養神経回路網が示す特徴的な同期活動であるネットワークバーストを示さず,非同期的な活動を行っていた.また,移動エントロピー解析によって,青斑核の結合強度は,海馬や大脳皮質の結合強度に比べて,極めて小さいこと,青斑核由来培養神経回路網内の結合は疎であることが示された.これらの結果より,MEA における青斑核の単独培養系が構築され,青斑核由来培養神経回路網のネットワークレベルのダイナミクスが初めて明らかとなった. また,独自に設計し,作製したMEAと生体適合性の高いシリコーンゴム Polydimethylsiloxane (PDMS) 構造物を組み合わせたデバイスを作製し,青斑核と海馬の共培養を行い,そのダイナミクスについて評価した.共培養系における両培養区画間の結合解析より,海馬から青斑核へのミリ秒オーダーの機能的結合を有していることが示された.また,共培養系における海馬のスパイク数,ネットワークバースト数は,海馬の単独培養系における両指標に比べて,小さく,活動が抑制されていることが確認された.その抑制効果にはノルアドレナリンが寄与していることが示唆された.これらの結果より,青斑核と海馬の共培養系が構築され,共培養系における培養神経回路網のダイナミクスに関する新たな基礎的知見が得られた.
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