研究課題/領域番号 |
12J07421
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
竹内 研生 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 性差 / アロマターゼ / 視蓋 / 神経幹細胞 / ガラニン / 視索前野 / in situ hybridization / 免疫組織化学 |
研究概要 |
繁殖/攻撃行動や性成熟などの形質は魚類の養殖効率や商品価値に直結する。こうした形質には広く性差が存在するが、それらの性差を生み出すと考えられる脳内機構は不明である。そうした中で、私の所属する研究室はメダカの脳内で発現性差を示す遺伝子を複数特定しているが、中でも注目される遺伝子がcyp19a1bとgalである。 前者は女性ホルモンであるE2を産生する酵素、アロマターゼをコードするが、今日まで魚類の脳におけるその機能的意義は説明されていない。興味深いことに、メダカでは視覚に関わる脳部位である視蓋でcyp19a1bがメス特異的に発現することが分かっている。私は昨年度、この顕著な性差を示す細胞が一般的に魚類のcyp19a1b発現細胞とされる神経幹細胞より、さらに未成熟な細胞であることを突き止めた。この結果は、メス特異的に産生されたE2が、細胞の新生、分化および細胞死に関わるという示唆に富むものであった。そこから、視蓋では実際にそうした細胞運命に結びつく遺伝子群の発現量が雌雄で異なること、また、E2がそれらの発現に影響することを明らかにした。同時に、cyp19a1bが視蓋への影響を通して何らかの行動に性差を生み出すと予想し、その検討に向けてcyp19a1bノックアウト系統のスクリーニングと継代も行った。 もうひとつの遺伝子galは機能未知の神経ペプチドであるガラニンをコードし、メダカの視索前野でオス特異的な発現細胞が見つかっている。私は以前、これらの細胞が感覚や行動に関わる複数の中枢にガラニンを輸送することを示した。そこで昨年度は、分泌されたガラニンが機能するために必要な受容体の分布を調べた。その発現を標識した結果、雌雄ともにガラニンの輸送先を含む広い範囲に2種類の受容体が分布することが示された。このことは、オスの脳においてgalが様々な脳機能に広く影響を及ぼしていることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
cyp19a16のメス特異的発現の機能探索については、すでに解析に用いるノックアウトメダカが確保されており、その行動や各種遺伝子発現機能から機能を明らかにすることができると考えられる。また、galやその受容体の機能機序の解析についてもcyp19a1bの機能解析を通して最適化されてきた組織学的手法などが利用可能であるため、技術的な困難は多くないものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
上記のcyp19a1bノックアウトメダカについて、生殖/攻撃行動の解析および細胞運命に関わる遺伝子の発現解析を行い、アロマターゼがメダカの脳で果たす機能およびその支配を受ける行動を明らかにする。既にノックアウト個体の産卵行動については現在撮影を進めており、今後はその解析を行い野生型と比較することでcyp19a1b発現の影響下にある行動を特定する。galについては受容体の機能解析を行うとともに、ノックアウトメダカを作製し、cyp19a1b同様の行動解析に用いる。同時に、ノックアウトが困難な可能性を考慮し、ガラニンまたはその阻害剤を投与したメダカの行動解析を行う。特にメスへのガラニンの投与は、ガラニン受容体が雌雄で等しく発現していることからも何らかの行動のオス化が期待できる。
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