研究課題
メダカの脳内で性行動を支配するとされる領域でメスのみで発現する遺伝子NPBに着目して研究を進めた。NPBが魚類の性行動を制御する役割をもつという仮説のもと、①メス特異的なNPBの発現をもたらす調節機構、②NPBの作用機序、③NPBの性行動に対する役割を明らかにし、魚類の性行動を制御する脳内メカニズムを解明することを研究の目的とした。本年度は以下の通り研究を実施した。①については、前年度までに発現調節機構の全容を明らかにできたため、原著論文にまとめ、発表した。②については、まずNPB受容体であるGPR8の発現解析を進めた。GPR8は脊髄前角の比較的大型のニューロンで発現する。マーカーとの二重染色によりこのGPR8発現ニューロンが運動ニューロンまたは自律神経節前ニューロンであることが明らかになった。さらに、GPR8発現ニューロンが、体のどの部分を支配するのかを調べるために、メダカの脊髄を頭部から尾部まで連続切片にする方法を確立した。また、脳内の全ニューロンを染色し、NPBニューロンに相当する大型ニューロンはオスには存在しないか、縮小していることを示した。次にメス特異的NPBニューロンの発火活動を電気生理学的に解析した。その結果、NPBニューロンは規則的に発火し、その活動はエストロゲン依存的であることが明らかとなり、NPBニューロンの生殖への関連性がさらに強く示唆された。③については、NPBのノックアウトメダカの作出を行った。現在、ホモノックアウト個体を得ることに成功し、表現型解析を行っている。NPBのパラロガス遺伝子であるNPCと、受容体であるGPR8のノックアウトメダカも並行して作出を進めた。また、メス特異的NPB発現はNPB遺伝子の上流にあるエストロゲン応答配列を介してもたらされることが明らかになっているため、その配列を破壊したノックアウトメダカも現在作出中である。
2: おおむね順調に進展している
交付申請書に記載した三つの目的のうち、目的の①については、エストロゲンによるNPBの発現調節のメカニズムのほぼ全容を明らかにできた。目的の②について、脊髄のNPB受容体発現ニューロンについては、細胞の種類を二つに絞り込むことができた。電気生理学的解析は、当初の計画であった波形のパターンを得る、日内変動を見る、生殖状態による影響をみるという三つを達成することができた。目的の③については、計画していたNPBノックアウトメダカのホモノックアウトの作出をすることができ、その他の関連した遺伝子のノックアウトメダカの作出にも順調に進んでいる。以上のことから、「おおむね順調に進展している」とした。
脊髄のNPB受容体発現ニューロンについては、いまだにその正体を確定はできていないので更に解析を進め、運動ニューロンと自律神経ニューロンのどちらなのか、また、体のどの部分を支配するニューロンなのかを組織学的手法を用いて解明していきたい。また、現在NPBノックアウトメダカの表現型解析中だが、これまでのところ、はっきりした表現型の違いが明らかになっていない。対応策としては、NPBのパラロガス遺伝子であるNPCが補償的に働いてしまっている可能性も考慮し、NPBとNPCのダブルノックアウトの作出、またNPB、NPC共通の受容体であるGPR8のノックアウトの作出を進め、それらの表現型解析も並行して進めることとする。
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Biochemical and Biophysical Research Communications
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