前年度に引き続き、メダカの脳内で性行動を支配するとされる領域でメスのみで発現する神経ペプチドNPBに着目して研究を進めた。 ①メス特異的なNPBの発現をもたらす調節機構:NPB遺伝子の上流にあるエストロゲン応答配列(ERE)をゲノム編集法により破壊したメダカを作出し、NPBの発現量を測定した。すると、NPBの発現がメスのみで減少していた。これにより、メス特異的なNPBの発現がエストロゲン受容体とNPB遺伝子上流に存在するERE様配列の結合による直接的なアップレギュレーションによってもたらされることが示された。 ②NPBの作用機序:メス特異的なNPBの作用場所を確かめるために、メダカの脊髄の最前部から最後部までの連続切片を作製し、NPBの受容体であるGPR8の発現をin situ hybridizationにより確かめた。すると、GPR8の発現は、脊髄の前角および、中心管よりも少し上のニューロンに前部から後部まで継続的にみられた。この結果から、NPBは交感神経系と運動神経系の両方に入力していることが示唆された。 ③NPBの性行動に対する役割:NPBノックアウトメダカの性行動の解析を行った。性行動を詳細に解析したが、有意な変化は見られなかった。そこで、NPBの新規パラロガス遺伝子NPCが補償的に働いてしまっている可能性を考え、NPBとNPCのダブルノックアウトメダカを作出した。また、NPB/NPCの受容体GPR8のノックアウトメダカも作出した。これらのノックアウトの性行動の解析により、NPB/NPCシグナルがメスの受け入れを抑制する働きを持つことを示す結果が得られた。
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