本研究では、主に以下の二つの目的をもって行っている。 ①野生動物の分布拡大を予測するための汎用的な統計モデルの開発 ②モデルの予測に基づいた千葉県房総半島での最適管理戦略の導出 ③外来感染症(口蹄疫等)のパンデミックにおける初期侵入地域の影響の評価 野生動物の管理には細かい空間スケールで生物の分布拡大を予測することが必要とされている。しかし、これまでは、①生物の移動に影響する環境異質性を考慮することが困難、②野外データが疎ら、③非常に多くの計算量が必要、等の理由から、そのような予測を行うことのできる統計モデルはほとんど検討されてこなかった。本研究では、生物の移動分散のモデル化を工夫し、最新の統計手法を利用することで、上記の問題の解決に取り組んだ。また、本研究で開発した統計モデルの推定をもとに、害獣となっているニホンジカの最適な管理戦略の導出や外来感染症のパンデミックに関する評価にも取り組んだ。昨年度は、一昨年度推定したパラメータにもとづき、口蹄疫など外来感染症のパンデミック(大流行)が起こりやすい初期侵入地域の条件を評価した。本研究の結果から、パンデミックが起こる地域は、今まで知られてきた「野生生物の個体数の多い地城」だけでなく「野生生物が移出しやすい環境をもつ地域」であることが明らかになった。特に重要なことは、両条件のそろった地域でパンデミックが起こる確率が跳ね上がることである。本研究の成果は未発表だが、今後原著論文を執筆し国際誌へ投稿する。 また一昨年度に引き続き、統計モデルのアルゴリズム部分の改良に努めた。最新の推定アルゴリズムのひとつであるDREAM (Differential Evolution Adaptive Metropolis)法を用いることで、パラメータ推定の安定性の向上に成功した。
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