研究課題/領域番号 |
12J07506
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
相山 好美 東京大学, 大学院農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 生殖発生工学 / 精巣 / 皮下移植 / 精子幹細胞 |
研究概要 |
〈研究内容〉 国内外の畜産分野では、人工授精技術を中心とする生殖発生工学の技術が高い生産効率を支えてきた。しかし、現状の種雄維持モデルは、種雄を個体レベルで維持するものであり、莫大なスペース、時間および経済的コストを要する。その上、厳選された貴重な種雄が伝染病や災害により損失するリスクが存在するモデルとも言える。従って、家畜の精子形成を室内で恒常的に維持し、必要に応じて受精可能な精子を採材して人工授精に供することを可能とする技術が開発されれば、次世代の種雄管理技術として大きな意義を持つと考えられる。本研究では、実験室レベルでの種雄管理技術として、マウス体内で家畜の精子を恒常的に産生する「代理種雄マウス」の開発を目指し、精巣の皮下移植法および精原幹細胞の移植法の2つのアプローチを実施している。 〈本年度の成果〉 ①精巣片の皮下移植法によるアプローチ 昨年度までに、マウス胎仔(E14.5)の精巣片を免疫不全マウスの皮下に同種間移植し、移植片が少なくとも2か月間精子発生を維持すること、ICSIおよび胚移植により新生児を産生可能な正常な精巣上体精子、すなわち機能的な精巣上体精子を作出可能であることを証明した。本年度は、同種間移植における移植片の長期間にわたる精子発生能の詳細な検証、およびハムスターを用いた異種間移植を試みた。結果、同種間移植においては、移植片は少なくとも半年間に渡り、精子発生を維持可能であることが明らかになった。また、ハムスターを用いた異種間移植では、同種間移植と比べると効率は低下するものの、約2か月間に渡りハムスターの精子発生がマウスの皮下において維持された。これは、異種間移植への応用の第一歩として重要な知見であり、今後、移植片の性状を免疫組織化学により詳細に解析予定である。 ②精原幹細胞移植法によるアプローチ 昨年度までに、セルトリ細胞特異的な発現を示すAMH(ミューラー管抑制ホルモン)プロモーターの下流にジフテリア毒素を組み込んだTRECKマウス(3ライン)を作出することを完了した。本年度は、ジフテリア毒素の投与量および採材までの期間を中心とする条件検討を行った。結果、条件検討を概ね終了し、セルトリ細胞を特異的に欠損するマウスの作出に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では2つのアプローチから代理種雄マウスの作出を試みている。精巣の皮下移植法に関しては、同種間移植による精子発生成績が芳しいものではなく、手技の確立上の課題が残っている。しかしながら、管構造の上皮に発現するたんぱく質を解析する過程で、著しい成果が得られている。それは、直精細管の末端部分における新規の精子幹細胞ニッチの同定というものであり、現在Development誌に論文を投稿中である。一方、精原幹細胞移植に関しては概ね計画通りに進行し、異種間移植の実施が実現しようとしている。従って、総じて①とした。
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今後の研究の推進方策 |
精巣の皮下移植法に関しては、異種間移植による精一子発生の誘導成績が芳しくない点が課題である。考えられる原因として、哺乳類の雄性生殖器官を形成する一連の管構造、特に下流の管構造(精巣網から精巣上体管)が精子発生に与える影響が種によって異なる可能性がある。従って、今年度は、ハムスターおよびマウスの精巣網から精巣上体管にかけての管構造の役割についても同時に解析を進めることとする。 精原幹細胞移植に関しては、脱落したセルトリ細胞の精細管管腔からの除去が課題である。これを解決するため、セルトリ細胞除去の動力になっていると考えられる精細管腔内を流れる水流についての基礎研究も同時に行うこととする。
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