国内外の畜産分野では、人工授精技術を中心とする生殖発生工学の技術が高い生産効率を支えてきた。しかし、現状の種雄維持モデルは、種雄を個体レベルで維持するものであり、莫大なスペース、時間および経済的コストを要する。従って、家畜の精子形成を室内で恒常的に維持することができれば、次世代の種雄管理技術として大きな意義を持つと考えられる。本研究では、マウス体内で家畜の精子を産生する「代理種雄マウス」の開発を目的とし、精巣の皮下移植法および精原幹細胞の移植法の2つのアプローチを実施した。
精巣の皮下移植法では、マウスの精巣を免疫不全マウスの皮下に移植することで、代理種雄マウスの作出を試みている。昨年度までに、精巣を精巣上体と共に移植することで精子産生効率を従来法の約19倍(2.1%→38.8%)に向上させることに成功した。本年度は、ハムスターを用いた異種間移植を試みた。ハムスターの精巣をマウスの皮下に移植したところ、少なくとも3か月間に渡り精子発生が維持され、精細管の内部には形態的に成熟した精子が観察された。しかしながら精子の産生効率は同種間移植と比べて低かったため、哺乳類の雄性生殖器官を構成する一連の管構造に関する基礎研究を行ったところ、精細管の末端部分に存在するセルトリバルブ領域が、幹細胞の増殖・維持の場として機能する可能性を見出した。本結果は現在、米国誌に投稿中である。
<精原幹細胞移植法によるアプローチ> 当アプローチでは、免疫不全マウスの精巣から生殖細胞およびセルトリ細胞を除去し、ドナー由来の細胞と置換することで、代理種雄マウスのを試みている。昨年度までに、生殖細胞およびセルトリ細胞を除去可能な遺伝子改変マウスを作出することに成功した。本年度は、マウスの精原幹細胞およびセルトリ細胞を移植した結果、セルトリ細胞の同種間における置換に成功した。
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