研究課題
本研究では、ねじれ振り子型低周波重力波検出器TOBAの開発を行っている。TOBAとは、干渉計型の重力波検出器に比べ低周波数帯の重力波に感度を持つ地上検出器で、中間質量ブラックホール連星や背景重力波などが主な観測ターゲットである。これまでに最初のプロトタイプが開発され、原理検証や初観測などが行われた。そこで現在は更なる感度向上のための次世代プロトタイプPhase-II TOBAの開発を行っている。ここでは主に、新たな懸架系の導入、防振系の導入、低温システムの導入を中心に開発を行うが、それ以外にも新たな観測手法の提案も行った。TOBAは2本の直行する棒状テストマスを持ち、これらの回転をモニターすることで重力波を検出する。これまでの観測方法では2つのテストマスの水平方向の回転のみをモニターしており、検出器の上下方向から来る重力波に主に感度を持っていたが、今回提唱した観測手法では、テストマスの垂直方向も同時にモニターする。こうすることで、センサーを追加するだけで、独立な3つの重力波信号を手に入れる事ができるようになる。これによって、TOBAの死角がなくなり、重力波を検出するチャンスを約2倍に増やすことができる。さらには、従来はその指向性の低さ故に、1台の検出器では重力波源の方向などといったパラメータを決定することができなかった。しかし、この手法を用いれば1台の検出器でも派源方向や派源天体までの距離、質量などを決定することができ、低周波重力波天文学の発展に大きく貢献できるものであると期待される。この他にも、TOBAに導入する防振装置の開発も行った。この防振装置は6本の足を持ったHexapodと呼ばれるタイプの台であり、それぞれの足にピエゾが内蔵され、足の長さを変動させることで台上板の位置をコントロールすることができる。そこで、台上板の上にGeophoneと呼ばれる速度計を設置し、ここで読み取った地面振動の信号が打ち消されるようにピエゾにフィードバックをかける事で、上板を能動的に防振することができる。現在までにこの装置で、1~10Hzという低周波数帯で並進3軸を同時に約10倍の防振比で防振することに成功している。この防振装置の利点は、低周波数帯に防振可能帯域を持ちながら直径約40cm, 高さ約20cmと比較的小型である点、冷凍機の振動などといった台の上部から侵入する振動に対しても同様に防振できる点にある。また、この装置は汎用性が非常に高く、Phase-II TOBAへの導入だけでなく、低温のSi光共振器を用いた周波数安定化光源の開発にも導入されている。光源開発の実験では、世界最高の周波数安定度を持ったレーザー光源の開発を目指しており、光格子時計のプローブレーザーに使用することで時計精度の更なる向上が期待されている。
2: おおむね順調に進展している
Phase-II TOBAの設計や防振系の開発では、防振系を完成させることができた点はインパクトが大きく、TOBAの感度向上に期待できる。そのほかにも新たな観測手法を提案し、その有用性を示すことができたため、おおむね順調に進展していると評価する。
今後は、Phase-II TOBAを組み上げ、その評価だけではなく、重力波観測や解析も行う。組み上げでは、Hexapodと振り子を組み合わせる事で、同相雑音除去比や防振比などを評価し、適宜改良なども加えていく予定である。特に重力波観測・解析では、本年度に提唱・解析的な検証を行った新たな観測手法については、実際のデータを用いて重力波探査や、シグナルインジェクションによる手法の検証が重要である。観測タ一ゲットはパルサーからの連続波やCompact Binary Coalescenseを想定しており、これらの解析パイプラインの構築が必要となる。
すべて 2013 2012 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
Journal of Physics : Conference Series
巻: 363 ページ: 12017
10.1088/1742-6596/363/1/012017
Frequency Control Symposium (FCS), 2012 IEEE International
ページ: 1,6
10.1109/FCS.2012.6243688
http://granite.phys.s.u-tokyo.ac.jp/ja/