研究課題/領域番号 |
12J07542
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研究機関 | 鶴見大学 |
研究代表者 |
木村 尚志 鶴見大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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キーワード | 歌枕 / 鎌倉 / 東国 / 歌枕書 / 宗尊親王 / 連歌 |
研究概要 |
本研究では、中世和歌における歌枕に関する考察を中心に、その変化をもたらした一因であろう鎌倉における和歌のあり方についての考察と併せて、中世和歌史の流れを変えた土地や生活や政治といった現実的要因を明らかにしようとするものである。 歌枕とは、現在義的には和歌に詠まれる地名を指すが、元来は広く歌に詠むべき題材、あるいはそれを書き記した書物のことを指した。したがって、それは人々が共有する和歌を詠む際に必要な知識として、具体的な歌の材料を提供し、また歌に詠むべき材料の範囲を共通認識として示すものであった。それがいつしか地名に特化されたのは、七地というものが住む場所や旅の頻度如何によっては実際に見る機会が限られるものでありながら、歌の材料である以上、歌人はその詠み方のあらましを知る必要があったからであろう。その情報は歌枕書に記述され、例歌なども挙げられた。歌枕詠には伝統の制約が多いが、新古今時代になるとそれまで詠まれたことのなかった現実の風景のあり方が重視されるようになる。そこで評価された歌は勅撰集にも採られ、共通認識とするために歌枕書にも登録される。歌枕詠における現実的傾向が宗尊親王の時代の東国においてますます顕著になったのは、現在では残っていないが散佚した歌枕書がこの時代にすでに作られていたからではないだろうか。後世の『夫木和歌抄』が現実の風景を詠んだ歌枕詠を多く採っていること、南北朝にかけて歌枕書の編纂が盛んであることも考え併せたい。その流れの上に旅に生きた連歌師たちとその旅の句の数々があるのではないだろうか。 そうした見通しに沿い、当該年度は近畿地方の歌枕の実地踏査、各地の文庫における歌枕書の文献調査、水無瀬における歌枕についての講演と地元の方々との交流等を行った。鎌倉の和歌については、宗尊親王の和歌が近い時代の先行歌を「推敲的」改作していること、宗尊親王が鎌倉や東国における和歌に対して、指導的位置に立っていたことを示唆する論文を書いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
博士学位論文を提出し、その出版にむけての補足的な材料を収集する段階に入っているため。また、辞書の執筆において、歌枕書の項目を担当し、その関係で文庫の調査の機会が多かったため。
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今後の研究の推進方策 |
博士学位論文の出版に向けて、実地踏査によって得た経験を背景に改稿し、論文をブラッシュアッフしたい。また、狭い視野にとらわれることなく歌枕の風土と文学の関係を考えるために、昨年のようにその土地における文化講座などでの講演の機会をできる限り得たい。
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