研究課題/領域番号 |
12J07554
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
湊 菜未 東京大学, 大学院農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 植物ウイルス / 原形質流動 |
研究概要 |
本研究では、ウイルスの細胞内移行が植物の原形質流動を利用したものであると考え、その移行メカニズムを解明する。 初期感染細胞においてウイルスは、「複製複合体」という構造体を形成し、その中で複製を行う。多くの植物ウイルスの複製複合体は小胞体(ER)膜上に形成される。さらに植物ウイルスは複製後、隣接細胞との間をつなぐ形質連絡(PD)を経由して、隣の細胞へと移行していく。ウイルスがER膜上で複製したのちPDに至るまでには、ウイルスは細胞内を移行すると考えられている。しかし、ウイルスがどのように複製の場であるERからPDへと移動し、PDから隣接細胞へと移行を行っているかについては長らく不明であった。植物細胞の原形質流動に関して、ERがミオシンを介してアクチン上を流動することによって原形質流動が起こるとするモデルが提唱されたことから、申請者はこのモデルに着目し、ウイルスの複製複合体は、植物細胞内においてER膜上に存在したまま原形質流動を利用して移動し、細胞間移行するものと考えた。 本年度においては「解析に最適なウイルスの再設定」および「生きたままの植物培細胞を用いて細胞内移行をトレースする系の確立」を目標とし、以下の研究を実施した。 1. 解析に適したウイルスの改変前年度まで使用していたradish mosaic virus (RaMV)は感染に二本の分節ゲノムを必要とし、原形質連絡にチューブル様の構造を作るために、細胞内移行の観察には適していたが細胞間移行の観察にはやや不適であった。そこで申請者は近年受け入れ研究室で盛んに解析が行われているplantago asiatica mosaicr virus (PIAMV)に注目した。PIAMVは細胞間移行の際にも特殊な構造は形成せず、細胞内のみならず細胞間の移行を解析するのに適していると考えられた。申請者は生きた植物細胞におけるPIAMVの動態を可視化するため、ウイルスをベクター化し緑色蛍光タンパク質(GFP)により標識したPIAMVを作出した。この成果は2013年10月25日にArchives of Virologyの電子版に掲載された。 2. 培養細胞を用いた細胞内移行を可視化する系の確立シロイヌナズナ植物体を用いる研究と並行して、細胞内の移行だけをより厳密に観察するために培養細胞による実験系の確立を試みた。実験には、理化学研究所バイオリソースセンターより分譲して頂いたタバコ培養細胞BY2のゴルジ体をGFP標識した「TBY2-RERIB」を用いた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は特別研究奨励費を用いてウイルスの移行をトレースするのにより適した材料を探索し、オオバコモザイクウイルス(PIAMV)利用のためにウイルスベクターを構築し、移行の全容解明に向けた研究の基礎を固めた。これにより、細胞間移行まで含めた植物宿主細胞内でのウイルス動態の解明がRaMVを利用した場合と比べてより早く進むものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は下記の実験を遺漏無く遂行する予定である。実験計画は以下の通り。 1. ウイルスが流動するER上で複製することの確認 原形質流動の有無によるウイルス複製箇所の拡散程度を解析する。作出した形質転換体およびミオシンVI欠失変異体を同様に形質転換した植物体のウイルス感染細胞においてdsRNA蛍光抗体で免疫染色を行い、複製複合体の局在を解析する。 2. 細胞間移行における複製複合体の経時観察 ウイルスが隣接細胞へ移行するまでの蛍光の軌跡をバイオイメージングで経時的・連続的に記録し、複製が起こってから細胞間移行するまでのタイムスケジュールを明らかにする。YFPによりERを蛍光標識した形質転換体においてウイルスにKaedeを融合して発現させ、その新生複製複合体の局在を、細胞内をはじめPD、細胞間移行後の細胞内などにおいて観察する。
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