平成24年度は、(i)正常乳腺の発生、分化段階における採取、(ii)妊娠・出産後の放射線誘発乳がんのリスク変化についての動物実験、(iii)思春期前後に放射線により発症した乳がんにおけるゲノムDNAのメチル化解析、についてラットを用いて実施した。 (i)に関しては、思春期前と後の正常乳腺、妊娠・出産前後の乳腺を病理観察および分子解析用に採取した。(ii)に関しては、妊娠・出産経験による乳がんの発生率を観察するために思春期前または後の雌ラットに、放射線またはメチルニトロソウレアにより発がん処理を行い、その後、妊娠と非妊娠群に分別し、飼育した。現在までに乳がんのリスク推定に必要なラットの匹数を長期飼育中である。(iii)に関しては、思春期前または後に放射線によって誘発された乳がんと自然発生乳がんについてゲノムDNAのメチル化解析を行い、大規模データから放射線被ばくにより思春期前に誘発した乳がんと思春期後に誘発した乳がんの違い、放射線誘発と自然発生乳がんの違いについてメチル化パターンの変化から明らかにしている。思春期前または後の放射線誘発乳がん、自然発生の乳がんにそれぞれにおいてゲノムDNAのメチル化によって遺伝子発現制御をされている可能性のある遺伝子を同定した。同定された遺伝子の中には、正常乳腺の発生や分化、腫瘍発生に関わる重要な遺伝子が含まれていた。今後、特にこれらの遺伝子に着目し、上記の動物実験で得られた正常乳腺組織および、乳がん検体を用いて、遺伝子発現とメチル化の変化を妊娠・出産経験による相違から調べていく予定である。
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