昨年度より引き続き(i)放射線被ばく後の妊娠・出産経験が及ぼす放射線誘発乳がんリスクの変化についての動物実験、(ii)ラットにおける放射線誘発乳がんと自然発生乳がんのゲノムDNAメチル化についての研究を実施した。 (i)に関しては、放射線照射または発がん剤メチルニトロソウレア投与処理をしたSD雌ラットと無処理の同ラット計約300匹を飼育・観察した。現在までにすべてのラットを解剖し終わり、正常乳腺組織と乳腺腫瘍および、乳腺腫瘍に関係する臓器の病理標本を作製した。 (ii)に関しては、思春期前または思春期後のラットに放射線を照射して得られた乳がん、非照射のラットに自然発生した乳がんおよび、正常乳腺組織から抽出したゲノムDNAを用いてCpGislandマイクロアレイ解析を実施した。正常乳腺組織と比べて高メチル化または低メチル化領域の数を調べた結果、低メチル化領域は自然発生乳がんにおいて特に高頻度に見られた。思春期前の照射による放射線誘発乳がんで特徴的なメチル化変動を示す領域は少なく、思春期後の照射による放射線誘発乳がんに特徴的な高メチル化領域が多く、自然発生乳がんに特徴的な低メチル化領域が多かった。Gene Ontology解析を行い、特徴的にメチル化変動を示した領域にどのような機能に関連する遺伝子群が濃縮されているかを調べた。思春期前の照射による放射線誘発乳がんでは、乳腺の発生に関連する遺伝子群のメチル化変動が特徴的であることが明らかになった。遺伝子の転写開始点近傍にあったメチル化変動を示す領域に着目し、それらの遺伝子発現を調べると、いくつかの遺伝子に関しては、メチル化変動と遺伝子発現変動が有意に逆相関していた。
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