植物ウイルスは化学農薬による防除が不可能なため、その防除は抵抗性遺伝子の利用に大きく依存している。従来用いられてきた種特異的gene for gene抵抗性遺伝子は、対応するウイルス種に特異的なウイルスタンパク質を認識し抵抗性を発揮すると考えられている。しかし、こうした抵抗性はウイルスの変異によりたびたび打破されてしまう点が問題であり、持続性が高く、より広域な抵抗性を発揮しうる遺伝子の探索が喫緊の課題であった。本研究は植物が持っていると考えられる、ウイルスの共通分子パターンを認識して発現する広域抵抗性反応の探索、さらにその機構の解明を目的としている。 本年度は当研究室で単離した抵抗性遺伝子JAX1の抵抗性に着目して研究を進めた。JAX1はPotexvirus属ウイルスのplantago asiatica mosaic virus (P1AMV)に対する抵抗性遺伝子としてシロイヌナズナエコタイプBay-0から単離された。その後の解析でJAX1抵抗性はPotexvirus属に属する多数のウイルスに対して有効であることが示され、非常に広域なウイルスに対する抵抗性であると考えられた。 JAX1によるウイルスの認識機構を明らかにするため、JAX1抵抗性を打破するウイルスの単離を試みた。通常の接種法では抵抗性打破ウイルスは出現しなかったが、接ぎ木を用いた非常に強い接種圧での接種法により打破ウイルスを獲得した。この打破株の配列中の変異部位を調べた結果、複製酵素中の1アミノ酸の変異のみでJAX1抵抗性を打破していることが示された。さらに、この1アミノ酸はPotexvirus属内で広く保存された共通のアミノ酸であることがウイルス配列の解析により示された。よってJAX1はこの共通のアミノ酸を認識してPotexvirus属に対する広域な抵抗性を発揮していると考えられた。
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