本研究の目的は宇宙線による半導体素子のシングルイベント効果(Single-Event Effects : SEEs)に関するシミュレーションの高精度化である。SEEsとは放射線が電子機器内の半導体素子へ入射した際に起こる現象で、これにより機器に一時的な誤動作(ソフトエラー)が生じる。以下、平成25年度の研究で実施した三項目について成果をまとめる。 (1) SER概算手法の構築 迅速なSER概算手法の一つとして多重有感領域(MSV : Multiple Sensitive Volume)モデルがある。本研究ではデバイスシミュレータHyENExssを用いて電荷収集効率の位置依存性を調査し、MSYモデルを用いて二次宇宙線中性子起因SERを算出した。その結果、過去の共同研究で構築したマルチスケールモンテカルロシミュレーションコードPHYSERDによる詳細解析結果と比較して概ね良い一致を示したことより、SER概算手法構築の見通しを得た。 (2) SOIデバイスへのアルファ線照射実験に関する解析 大阪大学の共同研究グループにより実施された設計ルール65nmのSOTB (Silicon on Thin Buried Oxidc)デバイスへのアルファ線照射実験について、PHITSと単純有感領域モデルを用いたSER解析を行った。その結果、実験ではアルファ粒子による付与電荷量を超える電荷収集イベントが発生していることを明らかにした。SOTBデバイスへのアルファ粒子入射についてHyENEXSSを用いた過渡解析を実施した結果、寄生バイポーラ効果などによって付与電荷量を超える電荷が記憶ノードへ収集されることが判明した。この結果より、SOTBデバイスに関するSER解析を行うにはデバイスシミュレーションを実施する必要があると結論付けた。 (3)物理モデルの精度検証 核反応モデルの精度検証を行うとともに異なる核反応モデルを用いてPHYSERDによるSER解析を実施した。その結果、特に低臨界電荷量デバイスにおいて、二次生成陽子の放出角度・放出エネルギーの記述の精度がSER解析結果へ大きく影響を及ぼすことを明らかにした。また精度検証結果よりソフトエラー解析に推奨される核反応モデルを提案した。
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