研究課題/領域番号 |
12J07723
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中川 明彦 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 酸素脱リグニン / セルロース / パルプ / リグニン / 速度論的同位体効果 |
研究概要 |
製紙用化学パルプの酸素脱リグニン過程におけるセルロースの分解は、その試薬である分子状酸素によってではなく、主に、リグニン中のフェノール性部位と酸素との反応によって、二次的に生成する活性酸素種(AOS)によって引き起こされる。また、これらAOSは、分子状酸素によっては分解されないリグニンの非フェノール性部位も分解し、脱リグニンにも貢献する。しかし、具体的にどのAOSがセルロースを分解するのかについては未だ解明されず、分解機構を解析することが不可能であった。 本研究の特色は、酸素脱リグニンに非常に近い条件下で反応を行い、解析を行う点である。これにより、酸素脱リグニン過程中に生成し、セルロースの分解に関わる全てのAOSの反応性、そして、これらとセルロースの反応について、詳しく解析することが可能となる。 今年度では、申請者は、酸素脱リグニン過程において、糖モデル化合物であるmethyl β-D-glucopyranoside(MGPB)、MGP6とはアノマー位・C-2・-3・-4位の立体配置が異なるmethyl α-D-glucopyranoside(MGPα)、methyl β-D-mannopyranoside(MMP)、methyl β-D-allopyranoside(MAP)、methyl β-D-galactopyranoside(MGaP)、AOS生成源としてフェノール性化合物である2,4,6-trimethylphenol(TMPh)を用いて、酸素-アルカリ処理を行った。 糖モデル化合物-種類を酸素-アルカリ処理した場合、AOSとの反応性はMAP、MGaP、MMP、MGPβ、MGPαとなり、中でもMAPの分解が非常に早かった。これらの結果から、糖モデル化合物の各炭素における立体配置の相違がAOSとの反応に影響を及ぼすこと、そして、C-3位の水酸基がアキシアル位に存在すると、AOSによって非常に攻撃されやすくなること、が示唆された。一方、MGPβを含む糖モデル化合物二種類を酸素-アルカリ処理した時、MGPβとMMPを共に反応させた場合のみ、MGPβを単独で反応させた場合よりもMGPβの分解を促進させたことから、MMP由来のAOSがMGP6を容易に分解することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は交付申請書に記載した通り、炭水化物の立体配置(アノマー位・C-2・・3・-4位)がAOSとの反応性に及ぼす影響についての検討を行った。MGPBとはC-5位の立体配置が異なるmethyl β-L-idopyranoside(MIP)の合成ができなかったものの、それ以外の立体配置が異なる糖モデル化合物を用いた実験結果において予期せぬ知見がいくつか得られた。また、その成果について論文一報投稿、学会発表二回(国内)、一回(海外)を行ったことから、今年度の研究達成度は「おおむね順調に進行している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、当初の目標であった「AOSによるセルロースの水素引き抜き」を検討するため、MGP6の一部の水素を重水素に置換したモデル化合物を合成する。MGP6と重水素置換モデル化合物の酸素-アルカリ処理と過酸化水素-アルカリ処理を行い、セルロースの最も攻撃されやすい水素部位を特定する。
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