研究課題
本研究では、インスリン・IGFのシグナル伝達を仲介するインスリン受容体基質(IRS)-1が小胞輸送のアダプター分子AP-1複合体と結合してエンドソームに局在することに着目し、II型糖尿病や成長遅滞などの主要因と考えられているインスリン・IGF抵抗性の新しい分子機構を明らかにすることを目的としている。本年度はまず、IRS-1がAP-1複合体によってエンドソームへ輸送される分子機構を、L6筋芽細胞を用いて詳細に検討した。その結果、IRS-1はAP-1複合体と相互作用することによって合成された後、cation-independent mannose-6-phosphate receptor(CI-MPR)陽性後期エンドソームへ局在し、その後CI-MPR陰性エンドソームへ輸送されることを明らかにした。さらに、IRS-1とAP-1複合体との相互作用を阻害すると、IGF依存的なIRS-1のチロシンリン酸化およびその下流シグナルが抑制され、IGFによって誘導される細胞増殖も阻害されることを見出した。さらに、タンパク質ビオチンリガーゼを融合したIRS_1をHEK293T細胞に発現させ、培地にビオチンを添加することによってIRS-1と結合している、あるいは近接している分子群をビオチン標識し、これをストレプトアビジンビーズで精製して、LC-MS/MSで同定を進めた。同定された分子の一つであるfilaminAについて解析を進めたところ、IRS-1とfilaminAが相互作用すること、filaminAの発現抑制によりエンドソームに存在するIRS-1が減少するとともにIGF依存的なIRS-1のリン酸化が減少することを見出した。一方、filamin Aはインスリン抵抗性発生因子の一つであるTNFaのシグナル伝達の足場であることが報告されており、filamin Aがインスリン・IGF抵抗性因子のシグナルとIRS-1が合流する重要な足場であることが想定された。また、内在性IRS-1を染色できる市販抗体が見つからなかったため、モノクローナルIRS-1抗体の取得を試みた。その結果、内在性IRS-1を特異的に認識するクローンを樹立することに成功した。
2: おおむね順調に進展している
本年度の成果により、AP-1複合体とIRS-1の結合様式およびIRS-1の細胞内輸送機構が詳細に解明された。さらに、内在性IRS-1を検出するモノクローナル抗体の作製にも成功した。したがって、インスリン・IGF抵抗性を示すモデル細胞・モデル動物の標的臓器においてIRS-1の細胞内輸送に欠陥があるかどうかを解析できる実験系がすでに確立しており、研究計画は順調に進展していると考えられる。
AP-1複合体によるIRS-1の細胞内輸送について、これまでは培養細胞を用いた解析が主であったが、今後は高脂肪食を与えたインスリン抵抗性モデルマウスや低タンパク質食を与えたIGF抵抗性モデルマウスにおいて、AP-1複合体とIRS-1の相互作用やIRS-1の細胞内局在を各標的組織で解析し、これらの結果を踏まえてIRS-1の細胞内輸送が阻害されないIRS-1変異体を発現するトランスジェニックマウスの作製を開始する予定である。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件)
Molecular and Cellular Biology
巻: Volume 33 ページ: 1991-2003
10.1128/MCB.01394-12