研究概要 |
本研究は地球表層システムの進化と変動を解明するため,顕生代を通じて度々繰り返された大絶滅事変およびその回復過程における表層環境と生態系のシステムダイナミクスを解明することを目的としている.特に,大気CO_2濃度と大陸風化速度の変動要因を解明すべく,国内外の層状チャートや湖成層の詳細な地質調査に基づき,全球シリカ循環ダイナミクスの解明に取り組んでいる.これまで美濃帯犬山地域の三畳・ジュラ系遠洋性層状チャートの堆積リズムがミランコビッチサイクル起源であることを明らかにし,日射量変動に伴う夏モンスーン強度変動が大陸風化速度を変動させ,海洋への溶存シリカ流出量が変動したことで,生物源シリカの堆積速度が変動した可能性を指摘した(Ikeda et al., 2010 ; Ikeda and Tada, in press).これが事実であれば、層状チャートから全球大陸風化速度を見積もることができる可能性がある.そこで、層状チャートとして堆積する生物源シリカの面的変化を推定すると共に,同時代の陸成層の化学組成から大陸風化速度の推定を試みる. 平成24年度は,新たに北海道神居古潭地域の三畳―白亜系層状チャート,四国秩父帯の三畳―中部ジュラ系層状チャート,および四万十体帯の白亜系層状チャートでサイクル層序の構築を試みた.特に,北海道神居古潭地域の層状チャートでは,検出したミランコビッチサイクルを用いて美濃帯犬山地域と層序対比を行い,三畳紀/ジュラ紀境界の年代精度の向上に貢献した.また,コロンビア大学のPaul Olsen教授らとの共同研究で,北米Newark湖成層の三畳紀/ジュラ紀境界前後の完全連続切断を行い,100-1000年オーダーの湿潤化イベントを新たに発見した.現在,同試料の化学分析の準備を進めており,三畳紀/ジュラ紀境界の陸域環境動態の解明に貢献できると期待される. こうした積極的な研究活動の結果,2012年アメリカ地球物理学会AGUにて招待講演を依頼され,また2013年日本堆積学会では論文賞と最優秀講演賞を受賞するなど,国内外にその成果が高く評価されつつある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成24年度は,新たに北海道神居古潭地域の三畳-白亜系層状チャート,四国秩父帯の三畳-中部ジュラ系層状チャート,および四万十体帯の白亜系層状チャートでサイクル層序の構築を試みた.特に,北海道神居古潭地域の層状チャートでは,検出したミランコビッチサイクルを用いて美濃帯犬山地域と層序対比を行い,三畳紀/ジュラ紀境界の年代精度の向上に貢献することが出来た.また,北米Newark湖成層の三畳紀/ジュラ紀境界前後の完全連続切断を行うことが出来,100-1000年オーダーの湿潤化イベントを新たに発見した. 以上の点は当初の計画以上に進展しており,三畳紀/ジュラ紀境界の陸域一遠洋域の環境動態の解明に貢献できると期待される.
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今後の研究の推進方策 |
三畳紀/ジュラ紀境界の陸域環境動態を解明するため,完全連続採集したNewark超層群堆積岩試料の化学分析(XRF,XRD,ICP-MASS)を行う.また,昨年度に引き続き,層状チャートとして堆積する生物源シリカの面的変化を推定するため,各地の層状チャートの詳細な記載に基づくサイクル層序の構築を行う.さらに,層状チャートを高精度層序対比するため,化石層序,炭素同位体比層序,古地磁気層序を行う.
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