研究課題/領域番号 |
12J07852
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
廣戸 孝信 東京理科大学, 基礎工学部・材料工学科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 磁性準結晶 / 正20面体クラスター固体 / 長距離磁気秩序 / 強磁性 / リエントラントスピングラス / 傾角強磁性 / 結晶場効果 |
研究概要 |
正20面体準結晶やその近似結晶は、局所構造に正20面体クラスターを有することが知られている。特に2000年にTsaiらにより発見されたCd-Yb準結晶を皮切りに、近年では70種類を超える合金でTsai型クラスター固体が相次いで報告されている。特に、Tsai型正20面体クラスターを有する複雑構造合金群においては、磁性を担う希土類元素が正20面体サイトに存在していることが詳細な構造解析により明らかにされている。そのため、局所的な正20面体構造と局在スピンが織りなす磁性や磁気秩序には興味がもたれる。しなしながら、上記の合金群においては低温でスピンがランダムに凍結するスピングラス的な振る舞いが知られているのみであった。 一方、それらの反例として、カドミウム-テルビウム近似結晶における反強磁性磁気秩序の形成(Tamura et al, PRB (2010)が明らかとなったことで、他のTsai型正20面体クラスター固体における長距離磁気秩序の発現の可能性が示唆されることとなった。以上の背景のもと、本年度は、Tsai型準結晶・近似結晶における長距離磁気秩序相の探索を行った。まず、近年合成されたAu-(Si, Ge)-Gd近似結晶において、上記の正20面体クラスター固体としては初めての強磁性転移を示すことを明らかにした。また、この強磁性はクラスター内部の組成・構造の乱れにも敏感で、この乱れに起因した再突入型のスピングラス転移を示すことを、比熱・交流磁化測定により明らかにした。また、合金中の希土類の種類を変化させると、磁化過程の振る舞いが異なり、単純な強磁性とはなっておらず、傾角強磁性が発現しているらしいことを明らかにした。詳細な磁気構造は、次年度の中性子磁気散乱実験により明らかにされるものと期待され、ごく最近では、中止し実験に向けた単結晶の育成にも成功している。 以上の研究により、正20面体希土類クラスター固体がスピングラス以外の多様な磁気秩序を形成していることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の過程で、Au系近似結晶が、カドミウム系2元系合金に次ぐ長距離磁気秩序を示す正20面体クラスター固体であるごとを明らかとした。この磁気秩序は強磁性的なものであり、正20面体準結晶関連合金では初めての現象であるとともに、これらの磁性がクラスターの乱れや希土類の結晶場の寄与によって変化することを明らかにした。申請課題の最終目標である近似結晶における磁気構造の解明は、次年度の中性子実験に期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、まず、Au系近似結晶の巨大な単結晶を育成し、中性子磁気散乱実験を行う。カドミウム系合金では困難であった中性子実験により、Au基近似結晶の傾角強磁性の磁気構造を解明することができると考えている。次いで、正20面体クラスター固体は、これまで述べたような多様な磁性をしめしながらも、それらが準周期的に配列した正20面体準結晶では、未だかって長距離磁気秩序の報告はない。今後の研究方針としては、引き続き近似結晶における長距離磁気秩序相の探索とその磁気構造の解明を行うとともに、正20面体準結晶の磁気秩序に関しても研究対象を広げる予定である。
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