本研究は、結晶中の正20面体希土類スピンクラスターの磁性に関する研究である。このようなスピンクラスターは、実際に準結晶や近似結晶において幅広く観測されていることから、それらの磁性や磁気秩序は興味深い問題である。本申請者らのこれまでの研究成果から、カドミウム-希土類、金-(シリコン、ゲルマニウム、スズ)-希土類系において、それぞれ、反強磁性転移と強磁性転移や傾角強磁性転移を磁化や比熱測定などのバルク測定の観点から明らかとしてきた。 本年度における研究は、これらの磁気構造をミクロスコピックな立場から解明することを目的としている。中性子散乱強度を考慮し、金-シリコン-テルビウム系合金に着目して単結晶中性子回折実験を行い、以下の成果を得た。実験は、オークリッジ国立研究所のHFIR、ビームラインHB-3Aにて行った。 1.磁化測定および中性子散乱強度の温度依存性から、11.5 Kにおいて、磁化の異常に加えて中性子散乱強度の増加を観測した。 2.磁気構造解析の結果、正20面体上の同一鏡映面に属する4つのモーメントがほぼ[1 0 0]方向を向き、また、3枚の鏡映面が互いに直交することで、正20面体スピンクラスターが全体として[1 1 1]方向に磁化を持った強磁性構造をとることを明らかとした。このことは、個々のスピンが強いイジング性の異方性を持っていることと対応し、強磁場領域でも飽和しない磁化曲線の振る舞いも説明される。 これらの結果は、正20面体スピンクラスター固体において、初めてその微視的な磁気構造を解明した成果であり、今後、同様の固体群における更なる磁気秩序の発見とその磁気構造解析に興味が持たれる。また、これらの成果は、現在論文として纏めているところである。
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