本研究では、新規の残留性微量有機汚染物質であるペルフルオロ化合物類(PFCs)を対象に、下水処理工程中および処理後の挙動を把握し運命予測を行うことを目的とした。本年度は2つの研究課題を進めた。 1つ目の課題、生物処理工程におけるPFCsの濃度上昇メカニズムの解明については、昨年度までに行った下水処理場調査および室内実験により、生物処理中に前駆体からPFCsが生成することが示唆された。一方で、PFCsの前駆体には分析法が未確立であるものが多く、個々の前駆体の汚染実態の把握が難しい点が課題であった。そこで、前駆体から生成するPFCs濃度(量)をPFCs生成ポテンシャルと定義して包括的に評価する手法を検討し、下水試料を化学酸化させて前駆体をPFCsに変換して評価する、迅速かつ簡易な手法を見出した。さらに、同手法を適用し5ヵ所の下水処理場を調査した結果、PFCsの1種であるPFOAの負荷量が生物処理前後で1.2倍から2.0倍程度に増加していたことや、放流水中であってもPFCs量と同等、あるいはそれ以上のPFCs生成ポテンシャル量が残留していたことが確認された。 2つ目の課題、再生利用された下水試料を負荷源とする汚染リスクの評価については、PFCsが残留する下水試料を用いて農産物栽培実験を実施した。その結果、下水処理場では除去されずに放流水や余剰汚泥に残留した前駆体が、栽培期間中にPFCsに変換され、農産物に移行する可能性が示された。この結果と、農産物を介したPFCs摂取量がヒト一日摂取量に占める割合が高かったという昨年度の調査結果とを合わせて考えると、ヒトへのPFCs曝露の低減に向けて、PFCsだけではなく前駆体を含めた対策が必要であることが明らかとなった。 本年度は、以上の研究成果および昨年度までの研究成果について、査読付き論文1編、査読付き国際発表1編、口頭発表6編の発表を行った。
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