ヒトの神経システムには不可避的な遅れが存在しており、それを補償するフィードフォワード、フィードバック・予測制御の仕組みが備えられている事が、知覚運動系の研究により明らかとなってきている。順モデルに関しても、その存在を示唆する研究は多くなされている。しかし、遅れて入力されるフィードバック情報と比較するためには、その遅れ時間まで考慮して予測を立てて感覚入力と比較する必要がある。申請者のこれまでの研究で、ヒトは時間遅れに暴露されることで遅れの認知が変化すること、また視覚運動変換課題を用いた行動実験でも遅れへの適応の影響が観察されることが明らかとなった。しかし、この遅れの獲得がどのようになされているのか、本当に時間という形で遅れを獲得しているのかなどの点については未解決のままである。 初年度の平成24年度は、フィードバックの時間遅れと認知・知覚の関連を詳細に観察するために、認知行動実験を行った。その結果、ヒトがものを動かす際に、その視覚フィードバックを遅れて提示すると、実際よりも重く知覚されることが示された。さらに、遅れに適応した後には、この知覚効果が消失することが示された。これは、感覚運動系が知覚・認知系に強い影響を与えている事を示す一例であり、今後の認知研究に大きなヒントを与える。 25年度においては、初年度に得られたデータのうち行動データを詳細に分析し、知覚変化と強く関連する運動神経系の変化を追跡する事を試みた。リーチング動作の加速度プロファイルに適応前後で有意差のある部分を発見し、それを説明するシミュレーションも行った。しかし、行動データの差異が微小であったなどの理由で、論文投稿時には知覚データのみを掲載・検討する論文とした。そして、この成果は25年度に学術誌に掲載する事ができた。
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