本研究は、気候変動による伝統文化の消滅という危機意識を背景に、ポリネシア・ツバルで実施されてきた歴史の記録化について考察することを目的とする。2014年度は、これまで行ってきた研究を踏まえながら、それが現在、どのようなかたちで展開しているのかについての最新状況を明らかにするべく、関連する諸資料の収集・分析を行った。 その結果、以下のことが明らかになった。これまでの研究で、ツバルの人びとの危機意識の形成においてはマスメディアによる影響が色濃く見られることを指摘してきたが、近年ではインターネット空間で流通する情報が大きな意味を持ちつつあることが明らかになった。さらに、インターネットの普及などの情報を得るチャンネルの多様化に呼応するかのように気候変動をめぐる見方もまた近年とみに多様化しており、気候変動が必ずしも伝統文化の消滅という危機意識を形成しないような状況へと変化しつつあることがわかった。 また、ツバルの人びとによってこれまで行われてきた歴史の記録化は一定程度、成果を残してきたが、近年では多様な意見をまとめることがより一層困難になり、その活動が停滞しはじめてきていることが明らかになった。この背景のひとつには、気候変動をめぐる意見が多様化し、必ずしも危機意識と結びつかなくなってしまったことがあげられる。他方、こうした状況に対して、現在では、何が記録化すべき「真実」の歴史なのかを、超自然的な存在によって明らかにしようとする動きもみられるようになった。この点は、気候変動の危機意識に端を発した歴史の記録化の動きが、現地社会の伝統的な概念と結びつきながら、新たな展開をとげていることを示唆するものである。
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