研究概要 |
本研究では,南中国の貧安地域から採取した約5.8億年前の動物胚化石と考えられる微化石(以下,胚化石とする)の起源に制約を与えることを目的とする.本年度,これまでに既に分析した胚化石と藻類化石の顕微赤外分光面分析データの再解析を行った.微化石の形態と化学構造の関係を調べるために,薄片の顕微鏡観察により胚化石の外膜と内部の部位を定義し,同一個体で部位によって赤外スペクトルが異なるか,また、異なる個体間の同一部位で赤外スペクトルが異なるか調べた.再解析した試料は胚化石5試料と藻類化石3試料である.8試料の微化石の顕微赤外分光面分析から得られた合計3万個以上のスペクトルデータに対し,スペクトル解析ソフトを用い,脂肪族炭化水素CH_2結合とCH_3結合、芳香族炭化水素C=C結合などのピーク高さを算出した.得られた脂肪族炭化水素CH_2結合とCH_3結合のピーク高さ比(CH_3/CH_2比),脂肪族炭化水素CH_2結合と芳香族炭化水素C=C結合のピーク高さ比(C=C/CH_2比)を各個体の外膜,内膜ごとに手作業でまとめた. その結果,1)胚化石において同一個体では部位による差は観察されず,2)同一部位で比較すると異なるピーク高さ比を示す個体があることが分かった.このことは,形態的に同一でも化学組成的には異なる胚化石が存在することを示す.また胚化石と藻類化石のCH_3/CH_2比,C=C/CH_2比を比較すると,一部の胚化石は藻類化石のそれに類似する.先行研究との比較により胚化石がバクテリア起源である可能性は否定されるが,動物起源であることは否定できない.以上のことから,胚化石の起源として一部は藻類,一部は動物胚であることが支持される.
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