研究概要 |
微化石が保持する有機物を探索するために, 原生代微化石試料の顕微赤外・ラマン分光分析を行った。その結果, 顕微ラマン分光分析により, これまでに確認した微化石が炭質物から構成されることを確認した。また, 顕微赤外分光分析により, 11試料中9試料から脂肪族炭化水素C-H結合を検出した。現在も分析を進めているが, 今のところそれ以外の有機官能基による吸収は観察されていない。 一方で, 顕微赤外分光分析から得られた脂肪族炭化水素のシグナルが熱変質によってどのように変化するか考察した。無機物(非晶質シリカ)存在下で熱変質させた場合における現生シアノバクテリア細胞の加熱実験データの再解析を行った。主要な実験はこれまでに既に行っていたので, それらのデータに対し速度論的解析を行い, Igisu et al (2009)で提案した指標(CH_3/CH_2比)の変化を調べた。その結果, シリカの有無にかかわらず脂肪族炭化水素は加熱と共に減少するが, シリカ存在下では減少速度が小さくなることが明らかになった。また, シリカの有無にかかわらず加熱生成物のCH_3/CH_2比は出発物質に比べ増加あるいは殆ど変化を示さなかった。加熱生成物のラマンスペクトルは約8.5億年前と約19億年前の細菌化石と類似した特徴を持つことから, シアノバクテリア細胞は両化石と同程度に炭化したと考えられる。以上の結果から, シリカと埋包は細胞中C-H結合の熱変質を遅くするが, CH_3/CH_2比を減少させることはないことが分かった。先行研究で示した化石のCH_3/CH_2比を説明するのは熱変質以外のプロセスであると考えられる。以上の内容を投稿論文にまとめ投稿した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き微化石の記載, 化学分析を中心に研究を推進する。その一方で, 化学指標は堆積物が続成作用を受け化石を生成する過程を考慮することが重要である。この点に関して, 当初は有機物の変質過程を考察するために, 現在の堆積物の記載を行う計画であった。しかし, 水・熱などによる化学変質過程に着目すると, 現生の微生物を実験室内で人工的に変質させた方が, プロセス(熱変質・水質変質など)と指標変化の因果関係を明確にしやすい。そのため, 有機物の変質については微生物の変質実験を中心に考察することに変更する。
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