研究課題/領域番号 |
12J07987
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
清野 淳司 早稲田大学, 理工学術院, 特別研究員(PD)
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キーワード | 相対論的量子化学 / 大規模分子理論 / 電子相関 / 量子電磁気学効果 / 2成分相対論 / 分割統治法 / 局所ユニタリー変換 |
研究概要 |
本年度はあらゆる分子系で正しく電子の挙動を表現できる理論開発を行うことによって、礎の確立を行った。具体的には本研究で用いる高精度な相対論的ハミルトニアンを用いて波動関数を正しく表現するため、以下の3テーマを遂行し、数原子程度であった従来の高精度4成分相対論計算の適用範囲が、計算精度を保ちつつ、数十・数百原子へと拡張された。 1.スピン依存2成分相対論に対応した電子相関理論の開発:高次2成分相対論である多電子系のための無限次Douglas-Krol1-Hess(IODKH/IODKH)法が電子相関計算へと対応できるよう、理論・プログラム開発を行った。具体的には、10DKH/IODKH法で与えられるハミルトニアンを精密に記述するため、αスピン関数とβスピン関数の線形結合で表した一般化スピン軌道を導入し、電子相関手法である2次Mφller-Plesset(MP2)法へと拡張し、あらゆるスピン演算子に対応可能な電子相関理論を確立した。 2.QED効果を取り入れた2電子Gaunt-Pauli近似の導入:超重原子を含んだ化合物の精密な電子状態や分子物性予測のために重要となる、量子電磁気学(QED)効果を考慮した理論開発を行った。QED効果を簡便に取り込むため、磁気的Gaunt相互作用を光速の逆数で展開し、その最低次の補正項であるGaunt-Pauli補正をIODKH法へと導入した。このGaunt-Pauli補正効果の検証はこれまで低次2成分相対論と併せて報告されているが、本研究のIODKH法のような高次2成分相対論へと拡張することによって、初めてGaunt-Pauli補正の厳密な精査が可能となった。 3.局所ユニタリー変換法を用いた大規模分子系のための高精度相対論的電子状態理論の開発:高効率・高精度に相対論的ハミルトニアンを与える局所ユニタリー変換(LUT)法を大規模系計算手法の一つである分割統治法(DC)法と組み合わせることで、Hartree-Fock、MP2、結合クラスター展開法において線形スケーリングを達成し、1kcal/mol以内の誤差で高精度な相対論効果を取り込める計算手法を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論開発の大きな進展がみられ、とくに元素戦略を行うために不可欠となる「QED効果の包含」、「相対論的量子化学理論の電子相関への拡張」、「分割統治法への連結」を開発し、その有効性が確かめられた。開発した手法は、これまでの相対論的量子化学理論の常識を覆す、高精度・高効率を達成する理論である。
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今後の研究の推進方策 |
初年度において理論開発基盤の大部分は完成された。理論開発において残りは概要の1.と3.を連結させること、つまりスピン依存2成分相対論に対応した電子相関の分割統治法への拡張、2.のQED効果を超重原子においても導入できるように、Gaunt-Pauli補正よりも高精度な10DKH変換されたGaunt項を実装すること、である。また2年目は、分子内で相対論効果に関する相互作用がどのような寄与をしているか、定性的・定量的に議論するため、所属研究室で開発してきた結合エネルギー分割解析手法と、独自に考案したハミルトニアン分割手法を組み合わせる。 これにより分子内部での局所的なエネルギー変化や一つ一つの相互作用エネルギーを調べるための手法を確立する。本手法は電子における正しい相対論効果を明確にする上で不可欠となる。
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