研究概要 |
近年, 教育のIT化を推進する動きが盛んとなり, 電子教科書などの視聴覚メディアを導入する学校現場が増えてきた。本研究の目的は, 児童・生徒の学習効率を最大限に引き上げる視聴覚メディアの在り方や活用方法を実証し提案することである。 今年度は, 昨年度に作成した言語刺激を用いて, 2つの研究を行なった。研究1では言語を視聴覚提示する際に理解を高める, 視覚情報と聴覚情報の提示タイミングを検討することを目的とした。成人24名を対象に, 同一内容の文字と音声の言語情報を①視覚先行, ②聴覚先行, ③視聴覚同時の3条件で提示して理解成績を比較した2つの実験を行なった。その結果, 文章内容の理解成績は, 視覚情報(文字)を聴覚情報(音声)よりも1文節分先行させて提示すると, 聴覚情報を先行させるよりも高くなることが示された。この結果から, 文字だけでなく音声によっても言語情報を提示できる電子教科書を活用した学習の効果を引き上げるためには, 学習者が文字を視覚的に処理した後に音声情報を提示するといったように言語の視聴覚提示のタイミングを考慮する必要があるとの提案をすることができた。 研究2では, インターネットなどを介した授業や会議を想定し, 発話者の表情が観察者の発話内容の理解に及ぼす影響を検討することを目的とした。成人36名を対象に, 研究1で使用した言語刺激を①怒り, ②喜び, ③中立の表情で発話した女性の動画刺激を提示し, 発話内容の理解成績を比較した。その結果, 発話者が喜び顔で発話し, 観察者が発話者の口元を注視している場合に理解成績が高くなることが示された。また, 口元を注視することで理解成績が向上するにもかかわらず, 観察者は特に指示がないと発話者の口元よりも目元を見がちであることも示された。この結果から, 視聴覚メディアを使用して授業場面を中継する場合の教師の表情と学習者の視線についての提言を行なうことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究の主要な目的である, 言語情報を文字と音声の視聴覚提示する際の最適なタイミングを検討する研究1を実施することができた。2つの実験をそれぞれ成人24名を対象に実施し, 視覚情報を先行させると理解成績が促進されるとの新しい知見を得ることができた。加えて, 発話内容を理解する際の発話者の表情の影響という研究2の実施に着手し, 発話者の表情と観察者の視線, そして発話内容の理解の関係についての知見をまとめることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は以下の二点に集約される。 一点目に, 言語情報を視聴覚提示する際の読み手の視線を計測し, 聴覚情報提示時の視点の位置を検討することである。今年度に実施した研究1では視覚情報が先行すると理解成績が促進されることが示されたが, 参加者の視線を計測することで具体的にどの程度先行させるとより学習効率が向上するのかが明らかになると考えられる。この成果を踏まえ, 学習に最適な視聴覚情報の提示タイミングを提案する。 二点目に, 対象者を成人だけでなく, 学齢期の児童・生徒に拡張して同様の実験を行なうことである。読解や聴解の習熟度の異なる参加者への実験を通して, 学習者の能力によって最適な視聴覚メディアがどのように異なるのかを検討する。 上記二点に加えて, 今年度の成果を学会や論文によって発表する。
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