研究課題/領域番号 |
12J08061
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
宮崎 匠 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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キーワード | 絵画論 / ジュネーヴ / ミニアチュール / 18世紀 |
研究概要 |
平成25年度の研究では、ジュネーブとフランスの絵画論の比較研究を遂行するため、まずジュネーブの文書館・図書館でジュネーヴ画壇関係者の著作を調査した。その結果、画家J=E・リオタールの『絵画の原理と原則に関する論考』(1781年)、美術愛好家F・トロンシヤンの講演録(1788年)、P・スベイランの『素描とミニアチュール絵画の概論』(1750年)では、造形芸術作品の仕上げの「入念さ」と、その仕事に必要な「我慢強さ」を両家の美質としていること、これらの著者あるいはその文章はミニアチュール(長径数cm程度の支持体に描画した絵画作品)の制作に直接・間接的に関連性を持っていることがわかった。 そこでこの点に関して18世紀フランスの絵画論を対象とした分析を進めると、そこではミニアチュール制作を専門的に行う画家について、性格として「我慢強さ」が求められ、また仕事の「入念さ」が必須の要素として強調されていることが分かった。だがフランスの美術関連刊行書では、「我慢強さ」を要する作品の仕上げの「入念さ]が顕著なミニアチュールの仕事は、「苦労」を偲ばせる手仕事の跡として、才能ある芸術家の流暢な仕事ぶりと対置され酷評されるケースが少なからず認められた。またジュネーヴのパテック・フィリップ美術館などにおける作品調査の結果、「我慢強さ」や「苦労」の痕跡はミニアチュールに特徴的な「点描」技法に具体的に観察されることが確かめられた。以上の研究より、ジュネーヴの絵画論で重視された作品の仕上げの「入念さ」と「我慢強さ」は、ジュネーヴの画壇関係者と関連の強いミニアチュール制作に携わる画家に備わるべき性格とされたという理論的背景を持ち、さらにフランスの伝統的絵画論と比較することによって相対的に顕著となる、ジュネーヴの絵両論の重要な特徴のひとつであったと結論することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の研究では18世紀ジュネーヴ絵画論の特徴を議論可能なテーマとして、ミニアチュールの問題が重要であったことを指摘できた。そしてその問題は同時代のフランス絵画論でも議論されていることが確認でき、両者の比較から相互の理論的特徴を浮き彫りにすることができた。この成果は本研究の重要な目的であるジュネーヴ絵画論の特徴の他地域のそれとの比較による相対化に寄与する点で、有意義な達成であると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の今後の推進方策については、18世紀のジュネーヴ絵画論の特徴をより徹底した相対化の方法により理解するために、さらに多くの比較対象を得ることが必要であると考えられる。そのために平成26年度には、これまでの研究で扱ったフランス語以外の言語で著された文献資料の分析を計面している。まず18世紀のスイスの諸都市で出版されたドイツ語の刊行文書史料を調査することを予定している。啓蒙期ドイツ語圏における絵画関係の出版資料は十分な数量があることを確認済みではあるが、もし論点の大幅な相違などの原因によりジュネーヴ絵画論の特徴と有意義な比較ができないことが判明した場合には、対策としてイタリア語あるいはオランダ語により18世紀に著された文献史料を参照することにより、研究内容の充実を図ることが有効であると考えられる。
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