研究概要 |
平成25年度には、昨年度を通して関係構築した噺家・劇場関係者・観客に研究協力を求め、研究目的に掲げた実験・調査を進めた。具体的には、師弟制度の中で主として噺を教わることに関するインタビュー調査を行った。その結果、伝統的な徒弟制度が注目されがちな噺家集団ではあるが、実際には所属団体・協会を超えて先輩や同僚の噺家に得意な噺を「教わる」「教える」関係があることが明らかになった。このような団体を超えた交流によってもたらされる"噺ごとの師弟制度"が、落語という伝統芸能における芸の継承を支えていることが示唆された。この徒弟制度における熟道化に影響する要因の一つを明らかにしたことは、従来の熟達化研究の知見を補強するものである。創造的な知識の共有・共創という知見は、組織における集合知の観点からも重要である。現在さらに多くの噺家にインタビューができるように準備している。この結果の一部は、すでに国際学会で発表した。 これと並行して演芸場の詳細な観察から演者-観客-観客系の視点から噺家の熟達の程度を評価する指標(観客の自発的まばたき反応の同期)を開発した。熟達化の定量的指標を用いて, 熟達した噺家の口演でしばしば観察される「多くの観客を同時に楽しませる現象」の背景にあるメカニズムを解明するための実験室実験を行った。その結果、熟達した噺家の口演は時間的に高い信頼性で観客の反応を引き込むはたらき(entrainment)によって観客のまばたきが同期することが示唆された。また噺の世界への没頭体験の程度が高かった。この結果は、非熟達者の口演では見られず、熟達差が確認された。これらの実験室実験の結果をまとめた論文はすでに認知科学誌に採択されている。さらに、定量化されたデータを目に見えるかたち、耳で聞こえるかたちに整理する手法を国際学会において発表した。現在, 観客の視聴経験が与える影響を検討する実験を実施し, 論文発表を予定している。
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