研究課題/領域番号 |
12J08100
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
向井 理紗 徳島文理大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | ウイルス / 遺伝子 / 応用微生物 |
研究概要 |
ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)のウイルス感染が原因となって発症する疾患として成人T細胞白血病(ATL)が挙げられる。近年、ATL患者由来のT細胞に例外なく発現が認められるウイルス由来因子としてHBZが同定されており、HBZこそがATL発症に深く関与することが示唆されている。これまでに、HBZは通常核に存在するが外界からのストレス刺激によって発現誘導されるGADD34と細胞質において相互作用し、細胞増殖などに関与するリン酸化酵素のmTORシグナルを活性化することを見出している。 平成24年度は、HTLV-1感染T細胞株(MT-1細胞)を用いた内在性HBZの挙動、およびHBZによるGADD34の機能抑制を介した宿主細胞への影響について検討した。MT-1細胞をDNAアルキル化剤(MMS)で処理し、内在性GADD34を発現誘導させた場合、通常核画分に存在するHBZタンパク質が細胞質画分で認められた。一方、HBZの核外輸送を阻害し、MMSで処理した場合ではHBZの局在に変化は認められなかった。また、HTLV-1非感染T細胞株にレンチウイルスベクターを用いてHBZタンパク質を恒常的に発現させる細胞株を作成した。GADD34を発現誘導させた場合、空ベクターを発現するコントロールの細胞株と比較して、HBZ安定発現株ではmTORシグナルの抑制効果を減弱させることを見いだした。しかし、核外輸送を阻害した場合、HBZはmTORシグナルの活性化を示さないことから、HBZは細胞質においてGADD34の機能を抑制していることが強く示唆された。さらに、近年GADD34は飢餓状態時において発現が上昇することでmTORシグナルを抑制し、細胞構成成分の分解機構の一つであるオートファジーを誘導することが報告されている。今回、HBZ安定発現株を血清飢餓状態に晒した場合、GADD34を介したオートファジーの誘導が顕著に阻害されることが明らかとなった。今回、宿主細胞質におけるHBZの機能は初めての報告であり、今後ATL発症機構を明らかにするためには核と細胞質の包括的な研究が重要であると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実際にHTLV-1感染細胞株におけるHBZの細胞質での機能解析を行うことができた。これまでにHBZは核内における機能解析のみであったが、今回細胞質における宿主因子の機能制御という点で初めての知見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
今後はGADD34以外の宿主細胞質因子との相互作用を中心に解析を行う。これまでにHBZと相互作用する宿主因子の網羅的探索を行なった結果、アセチル化を制御する因子、細胞質から核へのシグナル伝達に重要なアダプタータンパク質など多数の細胞質因子群を同定している。それらの機能に対するHBZの影響を明らかにする。
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