今年度は、量子情報理論の最先端の物理的・数学的な知識を駆使して、量子熱機関における二つの未解決問題を解決することに成功した。以下に簡単に説明を行う。 【解決した問題1:統一的な量子熱機関の定式化の不在】これまでに、量子熱機関の定式化は、非常に様々に提唱されてきたが、統一的な定式化は存在しておらず、異なるモデル同士の関係はあまり深く議論されてこなかった。そこでまず、量子熱機関の一般的な定式化を測定理論に基づいて与えた。 これは、「取り出したエネルギーの量が数値的に与えられる」ような任意の量子熱機関が含まれる、極めて一般的なものである。既知の様々な量子熱機関の定式化は、我々の定式化の特殊な場合として分類でき、これによって既存のモデルのうちの幾つかは、実は取り出した仕事の量が測定不能になるなどの欠陥がある事が明らかになった。 【解決した問題2:微小熱機関の効率上限】量子系の熱機関の性能限界を調べる為には、マクロ系の熱力学においては無視できた、量子効果、有限サイズ効果、揺らぎの効果を取り扱わなくてはならない。この3つを取り扱う為には、有限の量子多体系を熱力学的極限を取る事無く、正面から取り扱う必要がある。しかし、これは超多次元のヒルベルト空間の上での最適化問題という、数学的に極めて困難な問題を解決する必要を意味していたため、これまで解析が進んでこなかった。一方で、近年、量子情報理論の分野においては、高次漸近論と呼ばれる計算手法によって、有限量子データ列の最適な圧縮効率を求める事が可能になりつつある。私は、情報処理機械と熱機関との間の対応関係に着目し、量子熱機関の状態変化を、この有限データ列の変換と捉える事によって、有限粒子熱浴の熱機関の効率上限を量子情報理論の枠組みで議論できる形に落とし込み、高次漸近論の計算手法を用いる事で、達成可能な効率上限を求めた。
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